第33話 勇者は追放した仲間を探し回る②

「その話、詳しく聞かせてくれ」

「え……キノコ……じゃなくて、勇者様、その話とは?」

「さっきの話だ! 地味ロイがどうこう言っていただろ!?」


 

 勇者に凄い目で睨まれ、客の一人がビクビクしながらも、自分が目撃したことを話し始めた。


「あれですよ、勇者様がお仲間を解雇した時のことですよ」

「ユーリ……いや、その地味ロイがどこへ行ったか分かるか?」


 自分がユーリを解雇した場面をこの酒場の常連達は目撃している。

 一度追い出した仲間を探し回っていると思われたくないヴァンロストは、あくまでロイロットを探している体で問いかける。


「どこに行ったかは分かりませんよ。ただ、俺が窓から見たのは地味ロイが少年と共に、大きな飛空生物に乗って、どっかに飛んでいってしまったことぐらいで」

「飛空生物だと?」

「身体が黒くてやたらにデカかった記憶はあるんですけどね。ワイバーンってことはないと思うんです。ロイはB級だし。ワイバーンって勇者様のようなSS級の人間じゃなきゃ乗れないものなんでしょう?」

「……ああ、そうだな」


 ヴァンロストは頷いてから、舌打ちをする。

 ロイロットが何に乗っていたのか知ったことではない。問題はユーリ達が飛空生物で移動した事だ。

 彼らは思った以上に遠くに行った可能性がある。



「道理でこの辺を探しても見つからないわけだ……」

「飛空生物の移動となると、捜索範囲が広がっちまうね」


 苦々しく呟くヴァンに、ローザも大きなため息をつく。

 イリナは「このケーキまぁ、まぁいけるんじゃない」と、我関せずだ。

 カミュラもタルトを食べて「タルトの方がマシよ」と呟く。

 そんな二人に呆れた溜息をを吐いてから、ローザは肩を竦めて言った。


「飛空生物で移動したのなら、ここから一番近い都会に行った可能性があるね。エトにある冒険者の館に行ったんじゃないの?」


 それまで我関せずだったイリナとカミュラはそれを聞いて目を輝かせる。

 商都エトは、この前行った南都ベルギオンと同じくらい大きな都だ。商業が盛んなあの都には多くの品揃えの良い大きな店が軒を連ねている。


「エトに行くの!? やった! お買い物に行くー!!」

「エトへ行くのであれば、新しい杖を買いたいわ」

「あと防具屋で新しい防具も買いたい!」

「そうそう、まだ行ったことがない料理店があるからそこにも行きたい!!」

「それなら評判のカフェにも行ってみたいです!!」


 急にはしゃぎだしたイリナとカミュラにげんなりするヴァンロスト。

 こいつら、こんなに苛っとする奴らだったっけ……? 

 こっちはユーリを探すのに必死なのに、二人とも積極的に協力してくれない。

 とは言え、酒場周辺で心当たりがある場所は行き尽くしたので商都エトに行くしかないだろう。


(待ってろよ……ユーリ。勇者様直々にお前を迎えに行ってやる)



 ヴァンロストは心の中でここにはいないユーリに向かって言った。

 勇者一行が酒場を去ったのを見計らい、質問に答えていた酒場の男達はやれやれと大きな溜息を吐く。


「勇者様……追い出した仲間を連れ戻そうとしてんな」

「でも探しているのはロイなんだろ?」

「ロイの名前が出る前に別の名前が出てたぜ。多分追い出した仲間の名前だろ。追い出してから気づいたんじゃねぇの? そいつが意外と使える奴だったって事に」

「ははは……そりゃ言えないわな。追い出した仲間を探していますって俺達には」


 

 ◇・◇・◇



 そんなこんなで勇者一行は、商都エトへ向かうべく、近くの町にある飛空生物貸出所に向かった。

 飛空生物貸出所は大きな厩舎に、ミディアムドラゴンやスモールドラゴン、グリフォンなど飛空生物たちが待機している。

 グリフォンは鷲のような上半身と獅子のような下半身を持つ飛空生物だ。

 値段は借りる生物や期間で変わるが、一時間もしない片道程度であれば五千ゼノスからだ。飛空生物は客を送り届けると自分たちで厩舎に戻るよう調教されている。


「良い子だね。私はこの子を借りるよ」


 全身が真っ白なグリフォンの頭を撫でてから、手綱を引くローザ。

 彼女はどうも動物好きなようだ。

 白いグリフォンもすっかりローザのことが気に入ったのか、甘えるように頬ずりをする。

 飛空生物は皆、自分より弱い相手は背中に乗せないという習性があり、グリフォンも例外ではない。SS級冒険者であるローザにはすぐに懐いたが、S級冒険者であるイリナとカミュラには威嚇をしていた。

 ヴァンロストはやや不満顔で貸出所の店主に尋ねる。


「ここにワイバーンはないのか?」

「うちで扱えるのはコレが限界ですよ。ワイバーンに乗りたいのなら、この辺じゃエトにあるギルドの館にしかないのです」


 店主の言葉にローザは露骨に顔を顰め首を横に振る。


「ダメダメ、あそこにいるのブラックワイバーンだろ? 大きいけど凶悪すぎるよ。私でも乗りこなせなかった」

「ブラックワイバーンは、エト支部のギルド長のものです。あれは規格外でSS級の冒険者でも乗るのは難しいですよ」


 そんな会話を聞いていたヴァンロストはふと、酒場の客の言葉を思い出した。

 そういえば、ロイロットが乗っていた飛空生物は身体が黒くてデカいと言っていたような気がしたが。


(まさかな……)


 あの地味なおっさんがブラックワイバーンに乗れるわけがない。別の飛空生物なのだろう。

 店主はにこやかに笑って言った。


「大丈夫、エト支部ならブラックワイバーン以外にも、SS級の冒険者様たちにもご満足頂ける大きなワイバーンがいますよ。まぁ、今は近距離移動するだけですし、こいつで我慢してくださいよ」


 店主がこいつと指さしたグリフォンは何とも目つきが悪く、嫌そうな顔でヴァンの事を見ていた。

 ローザがクスクスと笑って言った。


「あんたとそのグリフォン、顔そっくり」

「何だと!? 何で俺がこんな馬鹿鳥と似ているんだ!?」


 馬鹿鳥という言葉にカチンと来たのだろう。

 グリフォンは怒りの声を上げながらヴァンロストの髪をむしり始めた。


「うぉい!! 何、人の髪をむしってんだ!?  おい、店主、こいつを止めろ!!」

「いや、そんなこと言われましても」


 結局、グリフォンはヴァンロストにそっぽ向き、髪がボロボロになったヴァンロストも生意気なグリフォンが気に入らなかったので、別の飛空生物に乗ることになった。

 

 ローザは苦笑して言った。


「あーあ、せっかく顔が似ているんだから仲良くしたら良かったのに」

「どこが似ているんだ!? そもそも似ているからといって、何で仲良くならなきゃいけないんだ!?」


 ヴァンロストは、しぶしぶとミディアムドラゴンに乗る。

 ミディアムドラゴンはイリナとカミュラも乗っている。大人しくて小柄なので、女性の冒険者がよく乗っているのだ。

 こんなのに乗るのは屈辱だが短い飛行時間だ。我慢するしかないだろう。

 一頭のグリフォンとミディアムドラゴン三頭は商都エトをめざし飛び立った。


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