第32話 勇者は追放した仲間を探し回る①

 一方勇者一行は――


「ここにも来ていないのか? ユーリ=クロードベルは」

「はい、ユーリ=クロードベル様は来ていません」

「……」


 これで何軒目になるのか。

 いくら探しても、ユーリは見つからない。


 まず最初に勇者一行は、ユーリに解雇宣告をした酒場から一番近い町にある冒険者ギルドの館に立ち寄った。

 しかし、受付嬢曰く、ユーリ=クロードベルという名の冒険者は訪れていないという。

 仕方がないので酒場から二番目、三番目に近い町や村にあるギルドの館、職業安定所などを何軒か渡り歩いたが、ユーリは見つからない。

 


「あーん、またハズレ~」

「一体何処に行ったのでしょうね?」

 カミュラの疑問にイリナもうーんと首を傾げる。


「ユーリを連れて行ったおじさん、ギルドに案内するって言ってたんだよね……もっと遠くに行ったってことかなぁ」

「でも飛空生物借りる程のお金は持っていないのでしょう?馬車にでも乗り合わせたのでしょうか?」

「まぁ、ついでに乗せてくれる人の良いおじさんって時々いるもんね」


 そして今、酒場から馬車で一時間の場所にあるギルドの館を訪ねたのだが、ユーリが見つけることが出来ず徒労に終わった。


(くそ……あの役立たずは何処に行ったんだ!?)


 苛立たしげにギルドの館の扉を開けたヴァンロスト。その時通りかかった子供に指をさされた。


「あ、ブロッコリーだ! ブロッコリー!!」

「コラ!! す、すみません!!」


 子供を叱咤し頭を下げる母親。

 子供のブロッコリーという言葉を聞き、近くにいた人々もクスクスと笑う。

 そういえば自分の髪型はまだ爆発頭だった。

 周りの人間も何も言って来ないから、あまり気にしていなかったのだが、後ろにいるイリナとカミュラ、そしてローザまで子供の言葉を聞いて、全員笑いを堪えているようだった。


 さすがにこの髪型のままで彷徨くのは勇者の威厳が下がる。 

 ヴァンロストは足早に理髪店に向かうのだった。


「あー、毛先から半分は完全に傷んでいるから切らなきゃ駄目ですけど、残った髪は薬液使えば真っ直ぐな髪に戻ると思います。」

「じゃあそれで頼む。ついでに綺麗に切りそろえてくれ」

「承知しました」



 理髪師に髪の毛を切ってもらいながらヴァンロストは考える。       

 一文無しのユーリが徒歩で行ける所など限られている……あの酒場の近くのギルドの館を徹底的に探し回ったが、なかなか見つからない。

 

(例の酒場に戻り、情報を洗い直すか……)


 髪の毛を綺麗に切りそろえてもらったヴァンロスト。

 しかし髪型が気に入らない。まるでキノコのような髪型なのだ。

 

「おい……この髪型は」

「今、この町で流行している髪型です。僕もしているんですけど、女性から可愛いって評判なんです」

「ふん、流行っているのか」

 

 確かに理髪師の髪型も同じだ。

 小柄で童顔というのもあり、女が可愛いと言いたくなるのかもしれない。

 

(可愛いと言われるのも悪くはないか)


 納得したヴァンロストは意気揚々と理髪店を出て仲間が待つカフェへ向かう。

 髪の手触りがよくなったな、と喜んだのも束の間。

 さっきの子供と再び出会ったヴァンロストはまたもや指をさされた。


「あ、キノコだ! キノコ! でっかいキノコだー!」

「コラ!! いい加減にしなさい!! 勇者様本当に申し訳ありません。その髪型よくお似合いですよ」

「……」


 頭を下げ謝罪する母親もヴァンロストの顔を極力見ないよう懸命に笑いを堪えていた。

 ヴァンロストはワシャワシャと髪をかきむしる。


 (やっぱりキノコじゃねぇかぁぁぁ! あの理髪師め!!)


 一瞬、あの理髪店を燃やしてやろうかと思ったが、さすがに髪型が気に入らなかったからといって民間人の店を燃やすわけにはいかない。

 それによくよく見ると、このキノコカットが流行っているというのは本当らしく、時々同じ髪型の人物がいる。

 しかし彼らが笑われないのはその髪型が似合っているからなのだろう。

 ヴァンロストは改めて窓に映る自分の顔を見る。

 やはり自分はキノコカットが似合わない。しかも顔の形のせいか、頭部の輪郭が本当にキノコにしか見えないのだ。

 

(くそ……他の理髪店でさらに短く切ってもらうか。しかし、この髪型が流行っている町だ。他の理髪師も同じようなものかもしれん。他の町の理髪店に行くか)


その後、合流したメンバーにも新しい髪型を笑われたヴァンロストであった。

 

 ◇・◇・◇


 ユーリを解雇した例の酒場に仲間と共にやってきたヴァンロスト。 

 料理もうまく、酒も安い人気の酒場で、昼間でも常連客で繁盛していた。

 ヴァンロストは大きなため息をついて椅子に腰掛けた。

 店員の女性がやってきたので、それぞれメニューを注文する。


「私、仔牛のグリエ、季節の焼き野菜と、ワースホワイトフィッシュのムニエル、オレンジコーンのスープに、ベリーベリーゼリー、グリーンティータルトに、ピンクポエトのケーキ、あとブルーワインお願い!」


 イリナがまず早口で注文する。

 それに続きカミュラも淡々とした口調で注文をする。


「ワース鶏の素揚げ、薔薇のサラダ、ウルトラシュリンプのフリッター、ブルースカイゼリー、アールグレイタルト、それからシャンパンお願いね」


 さらにローザが注文する。


「アランゴーラの唐揚げ、ワース鶏の串焼き 皮とももお願いね。あとは冷えた麦酒をジョッキにお願い」


 ヴァンロストは我先に注文する女達にやや呆れながらも、自分もいつも食べているメニューを注文する。

 早々と酒が来たので女三人は乾杯をする。

 ヴァンロストはそんな気分になれず、頬杖をついて息をつく。


「お待たせしました。エトワース牛のステーキです」


 目の前に出てきたステーキは程よく焼けていて柔らかく、味に申し分もない。

 しかしユーリが焼いたステーキの焼き加減は絶妙で、肉汁の広がり、噛んだ時の弾力が全然違う。それにソースもキノコの風味がきいていて美味だった。


(……くそ……何で、あいつの味を思い出すんだ!?)


 ヴァンロストが唇を噛みしめた時、隣席の客達の会話が耳に入ってきた。


「いやぁ、吃驚したよ。俺、窓から見てたんだけどさ、あの地味ロイがデカい飛空生物に乗って飛んで行ったんだよ」

「へぇ、ミディアムドラゴンじゃなくて?」

「あれよりはデカかったし、顔も凶悪だったぞ?」

「まさかワイバーンじゃないよな?」

「ワイバーンはさすがにないだろ? ありゃS級でも乗るのが難しいんだぜ? あいつ、万年B級だぞ?」


 客人の会話に耳が大きくなるヴァン。


(こいつら今、地味ロイの話をしていたよな?)


 地味ロイと言えば、解雇したユーリと共にこの店を出て行ったB級冒険者だ。

 ヴァンロストは席を立ち二人の元に駆け寄った。

 そしてバンッとテーブルを叩き、恐れおののく二人の客の顔を覗き込んだ。


「その話、詳しく聞かせてくれ」

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