第25話 新たな仕事依頼②
「俺とユーリが結婚って……あ、あのな……こんな一回り以上離れたおっさんと結婚なんかしたら可哀想じゃないか」
「それくらい年が離れた夫婦は珍しくない。言っておくが、俺の奥さんは百歳年上だからな」
「お前の奥さんはエルフだろ? 人間と同じ基準で言うな」
エルフはフェリアナ大陸に住む種族で耳が長く、美形なのが特徴だ。しかも人間よりも長命だ。ウォルクの奥さんの年齢は現在百三十六歳だと聞く。
「いくら二大勢力の争いを避けるためとはいえ、結婚は飛躍しすぎだろ?」
「そうかもしれんが、お前ら楽しくやってるみたいだし、いいじゃないか」
「何だよ、俺とユーリの結婚を勧めるためにわざわざここに来たのか? だったら帰ってくれよ」
丁度その時、温めたスープを持ってユーリがこっちにやってきた。
俺とウォルクの会話を聞いていたのだろう。
かぁぁぁぁぁっと顔を真っ赤にしていた。
スープの器をテーブルの上に置いてから、ユーリは俺に一言言った。
「僕は二十歳です」
「え……二十歳なのか?」
「この前、誕生日来たので」
「何だよ、言ってくれれば誕生祝いくらいしたのに……」
「そ、そんなのしなくていいです! と、とにかく! 子供扱いはやめてください!」
何だよ、恥ずかしそうな顔して怒鳴るなよ。しかもいきなり敬語になるなんて余所余所しい。
何で怒っているんだ??
ユーリはそっぽ向いてから、足早に調理場に戻る。
俺はウォルクに抗議する。
「おい、コラ。彼女と気まずくなっちまっただろうが」
「当たり前だろ。保護対象としてじゃなく、一人の大人の女として見てほしいって事だろ。二十歳にもなれば当たり前だ」
「そ、そんなまさか……あんな可愛い娘だぞ? もっといい相手がいるだろ?」
「お前、昔っから恋愛ポンコツだな」
「誰がポンコツだよ」
ムッとする俺にウォルクは大仰に息をついてから、ユーリが出したスープを一口飲んだ。
そして驚いたように目を見張る。
どんどんスープを飲み、半分ほど減ったところで彼は言った。
「うむ。このスープは絶品だな。ユーリ君はSS級の料理人としてもやっていけるんじゃないのか?」
「ああ、そうだろ? この料理を勇者一行はボロクソ言っていたらしいぞ?」
俺の言葉にウォルクも呆れた表情になる。
この絶品のスープに文句を言う奴がいるのか!? と言わんばかりだ。
「成る程。あいつらが一度解雇したユーリを必死に探しているのも、この味の有り難みを今頃になって思い知ったのかもしれないな」
「そうだろうとも。俺だってこのスープの虜なのに」
言いかけて俺はハッと我に返り口を閉ざす。
しまった、今の発言はユーリに胃袋を捕まれてしまったことを、こいつにバラしたようなもんだ。
ウォルクはニヤニヤ笑って俺に言った。
「ほら見たことか。お前自身、もう離れられなくなっているじゃないか。ユーリも満更でもなさそうだし、考えておけよ。結婚」
「お、お前な……」
俺がもう一度抗議しかけた時、ウォルクはズボンのポケットから一枚の紙をとりだし、俺に見せた。
そこにはアイスディアの捕獲求む。報酬 五千万ゼノス 及び ダイヤモンドパスカードと書かれている。
「結婚のことは置いておいて、本当の用事はこいつだよ」
「アイスディアの捕獲?」
「ああ、生きたままで捕獲して欲しいという依頼だ」
「確かにその辺の冒険者だと難しい依頼だな」
アイスディアは氷系の鹿形の魔物だ。
魔物でありながら氷の魔法を操るのでやっかいだ。A級……大きな雄だったらS級以上の冒険者じゃないと、まず太刀打ちできない。
ちなみにアイスディアは雄にも雌にも角がある。
ただ、やはり雌の方が角は小さい。
そんなA級~S級クラスの魔物を生け捕りとなると、相当難しくなる。
下手に生かしておけば、自分がやられてしまう。それほどまでに強い魔物なのだ。
「難しい仕事だが報酬のダイヤモンドパスカードは魅力的だな。他国のギルドにいちいち登録しなくてすむし、レアダンジョンの出入りも自由になる」
今まで登録の手続きが面倒だったから、他国での仕事は請け負わなかったのだが、この辺の魔物と戦うのも飽きてきた、というのが正直あった。
平穏な生活を満喫しているものの、たまには違う国で、今まで戦ったことがない魔物と戦ってみたい気持ちはある。
それにレアダンジョンはSS級の冒険者でも許された人間しか出入りすることが出来ない。それだけ危険な場所であるが、その分、珍しい魔物を狩ることが可能だ。珍しい魔物は高値で売れる。
ダイヤモンドパスカードはそんなレアダンジョンの出入りが許される特別なカードなのだ。
他にも公共交通機関がタダになったり、ギルド関係の宿泊施設がタダになる。
冒険者にとっては夢のようなカードだ。
アイスディア捕獲の報酬金は五千万。かなり法外のように思えるが、アイスディアの角を売った方がはるかに金になる。報酬金だけだったら損な仕事だ。だからダイヤモンドパスカードも付けたのだろう。
「勇者一行も夕闇の鴉も既にダイヤモンドパスカードを持っているからな。この仕事を請け負ってくれない。そこでお前の出番、というわけだ」
「成程……」
どうしても平穏な生活を続けていると退屈に感じてしまう時がある。そんな時、たまには他国へ行って日帰り冒険をするのもいいだろう。
それにレアダンジョンでユーリに戦いの経験を積ませておくのも悪くはない。
そう考えるとダイヤモンドパスカードはとても魅力的だ。
「よし、その依頼引き受けた」
「ロイならそう言ってくれると思った」
「期限はいつまでだ?」
「出来れば来月までには、と先方は言っている」
「来月ね……標的さえみつかれば半日で終わるんだけどな」
アイスディアは稀少生物。見つけるまでが時間がかかるのだ。
その時ユーリがおずおずとお茶が載ったトレイを持ってきた。
先程、少し怒ったような口調で去ってしまったことで、気まずそうだった。
俺は微妙な雰囲気を振り払うように、敢えて明るい口調で言った。
「ユーリ、アイスヒートランドで仕事だ。旅支度をはじめるぞ!」
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