第14話 魔物都市ベルギオン
南都ベルギオン。
常夏の都で海に泳ぎに来る観光客も多い。
エトワース王国の南部にあるその都周辺は、昔から多くの魔物が生息していた。
故に冒険者達が魔物を狩るべく、この町に集まる。また魔物使いなど魔物を飼育、調教する魔物使いたちなども多く住んでいて、魔物同士を競わせる大会が闘技場で行われることもあった。
魔物によって栄えているこの都のことを、人々は魔物都市と呼ぶ。
歩道にはミニサイズのドラゴンや犬系統の魔物――魔犬を散歩させている人々がちらほらといる。
ユーリは慣れた様子で、大通りの並木道をすたすたと歩いていた。
途中細い路地を曲がると、そこは商店街になっていた。
薬屋横丁と言われる場所だ。
その中の一つの店に彼女は入っていったので、俺も後に続いた。
カウンターの店主に薬草が入った布袋を出す。
店主はユーリと袋の中の薬草を見比べてからニヤッと笑って言った。
「五千ゼノスで買い取ろうか、嬢ちゃん」
「……じゃあ、他の店で売る」
「いやいや、御免。冗談だよ。八千ゼノスでどうかな」
「やっぱり他の店にするね。あそこは一万ゼノスで買い取ってくれたので」
「待て待て! 分かった!! じゃあ、一万と五十ゼノスで買う」
ユーリはとても慣れた様子で、薬草や魔物を業者に売っている。相場もきちんと把握していて、安く買い取られるようなこともない。
長いこと勇者を支えてきただけに、ユーリは思いの外逞しい。
……彼女だったら、冒険者やらなくても、自給自足でやっていけそうな気もするんだけどな。
とはいっても、薬草と魔物を売るだけじゃ、なかなか安定した生活ってわけにはいかないからな。冬になれば薬草は採れないし、魔物だっていつでも狩れるわけじゃないから難しいか。
その点冒険者になれば、 冒険者ギルドの館に行けば仕事の依頼書が掲示板に貼られているからな。B級以上になれば仕事には事欠かない。
薬草を売った後は、巨大ウサギのアランゴーラを魔物取引所で売ることに。
魔物取引所だったら良い所を知っていたので、俺はユーリをそこに案内することにした。
その店は安くふっかけることはないし、俺が常連なのでけっこうサービスもしてくれる。
「最近、侯爵家のお嬢様がアランゴーラの毛を所望しててな。うちにはなかなかいい在庫がなかったから、めちゃくちゃ助かったよ」
アランゴーラの毛質を確認しながら、店主はほくほくした表情で言った。
どうやら持ってきたタイミングも良かったらしい。
いつもより倍の値段で買い取ってくれた上に、解体した後アランゴーラの肉を分けてくれた。
アランゴーラの肉は柔らかくも弾力があり、味も良いことから高級料理に使われることがある。
肉はかなりの量なので収納玉に収めて持ち帰ることにした。
「今夜はアランゴーラのお肉で唐揚げを作るよ」
「お、そいつは楽しみだな」
俺達がそんな話をしながら路地を出ると、大通りの方が何やら賑やかなことになっていた。
ひ、人が多くて前に進めねぇ。
一体何がどうなってんだ?
しかも混み合っているのは大通りの両サイドの歩道。
道の真ん中は空いた状態だ。
パレードか何かでもあるのだろうか? この都では時々、派手な活躍した冒険者達がパレードをすることがあるからな。
「あ、来た来た!」
「夕闇の鴉の人たちよ!」
「凄い……ニック=ブルースター、本物だ」
ニック=ブルースター。
SS級の冒険者で、オークの軍団から一国を救った英雄だ。
そして最強の冒険者達が揃っているパーティー、『夕闇の鴉』のリーダーでもある。
名前しか聞いたことがないから、俺もこの目で見るのは初めてだ。
青みを帯びた黒い馬に騎乗した青年が、笑顔で人々達に手を振っている。
まっすぐ伸びた銀色の髪をひっつめにして一つに結び、くっきりとした二重の水色の目は涼しげで、目鼻立ちも整っている。
噂ではどこかの王様の隠し子なんじゃないか?、と言われている程、品がある整った顔をしている。
故に、彼が通る度に黄色い悲鳴が上がる。
ニックの後に続くのは、フードを深くかぶった魔法使いらしき少女、ウォルクと同じ、犬の耳と尾を持つ獣人族の青年は拳士か何かなのだろう。武器はない代わりに拳に拳鍔をはめている。小柄で可愛らしいドワーフ族の少女は顔に似合わず、ごつい斧を肩に担ぎ馬に乗っている。眼鏡を持ち上げている青年は、多分神官なんだろうな。
彼らはお互い何やら話をし、笑い合いながらも、群衆に手を振っている。
何だか仲が良さそうだな。
パーティーの結束がそれだけ固いのだろう。
夕闇の鴉はいい冒険者パーティーのようだ。ユーリもああいった連中と旅を出来たら良かったのにな。
「あ、見て見て!! 勇者様よ」
「きゃーー、本物!!」
「この前、ワース遺跡のドラゴンを倒したんでしょ?」
勇者様、というフレーズを聞いた瞬間、ユーリの表情が強ばった。
俺は彼女の肩を叩き、「大丈夫か?」と尋ねる。
「いや……ちょっと驚いただけ。まさか今日、あの人達が来るとは思ってなかったから」
全くだな。
さすがに鉢合わせってことはなかったものの、同じ日に同じ場所にいることになるとは思わなかった。闘技大会は今日だったか。
今すぐこの場から離れたいが、周囲が混み合っていてなかなか動けないな。
「なんか勇者様、顔色悪くない?」
「ちゃんと寝ているのかねぇ……」
「夕闇の鴉達と違って、悲愴感漂ってるなあ」
一部の人々が口々にするように、勇者一行はさっきの夕闇の鴉たちと違って、重苦しい空気に包まれていた。
魔法使いの少女と神官の女性はお互いそっぽ向いたままで、目を合わそうともしない。
俺は思わず呟いた。
「あの二人、喧嘩でもしてんのか」
「あの二人はあれが通常だよ。しょっちゅう喧嘩しているから」
「そ、そうか」
あのメンバーの中で余裕なのはローザだけだな。貴族の兄ちゃんらしき人に手を振っては片目を閉じている。
一方勇者は寝不足なのか、顔は青白く、目に隈が出来ていた。
夕闇の鴉たちが陽気なチームだとしたら、勇者のパーティーは、ローザ以外陰気なチームだな。
夕闇の鴉や勇者のパーティー以外にも、目立った活躍をした冒険者たちがパレードに参加していた。
彼らの行き先は闘技場だ。
パレードを主催したのは闘技場のオーナー、ゴリウス=テスラードという人物らしい。
名前からして何となくごつい巨漢なおっさんのイメージがするな。
「ユーリは闘技に参加したことはあるのか?」
「僕はやることが沢山あったから、参加したことないよ」
……あの馬鹿勇者がこんな華やかな場所にユーリを連れてくるわけないか。
ユーリは闘技場の方向をじっと見ていた。
どこか憧れめいた眼差し……自分の可能性を知りたいユーリとしては実力が試される闘技場に一度は挑戦してみたいのかもしれないな。
でも闘技大会は前もって参加申し込みしないといけない。
当日の飛び入り参加は出来ないから、次回の機会を待つしかないな。
ただ席がまだ空いていれば、見物はできるはず。
ギルドに登録している冒険者の優先座席があるんだよな。
「ユーリ、俺達も闘技大会見てみるか」
「え!? ……でもヴァン達もいるし……あんまりあの人達には会いたくないかな」
「ああ、分かっている。ようするに奴らに見つからないようにすればいいんだよ」
「え!?」
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