第13話 休暇でもユーリは働き者

 ギガントリザードの討伐、サーベルホワイトウルフ駆除の仕事も終わったので、しばらくの間はユーリと二人、家で過ごすことになった。

 ギルドからの依頼がない間は貴重な休暇だ。にも拘わらず、ユーリは働き者だ。

 毎日せかせか動いている。

 夕飯の仕込みをしたかと思えば、風呂掃除、台所掃除をはじめる。

 お陰で俺の家はかつてないくらいピカピカになっていた。

  俺もそんなユーリを見習って掃除をしたりする。

 家の前の落ち葉をホウキで集めていると、今度は洗濯物を取り込んでいるユーリの姿があった。

 服はいつも清浄魔法クリーンで綺麗にしていたけれど、ユーリは桶に川の水をくみ丁寧に水洗いをする。

 しかも柔軟エキスという、仕上がりがふんわりするという液体を入れて仕上げるので、服は花の香りがして良い匂いなのだ。

 

 

 家周辺の落ち葉を集める終えると、焚き火にちょうど良いくらいの小さな山ができた。

 せっかくだから芋でも焼くか。

 甘みが強いこの芋はエト芋と言って、焼いて食べるのが一番美味しいからな。

 俺は落ち葉の山の中に芋を埋めると、パチンと指を鳴らした。

 次の瞬間、落ち葉に小さな火が灯り次第に燃え始める。

 落ち葉だけでは足りないので、木の枝も追加する。

 季節は春だが、風はまだ冷たい季節だ。 

 あー、焚き火は暖まるな。

 こういう時、ささやかな幸せを感じられるのって平和でいいよな。

 

 洗濯物を取り込み終わったユーリがこっちにやってきた。

 焚き火をつついている俺の姿が不思議だったらしい。


「ロイ、何をしているの?」

「芋を焼いているんだ」

「芋?」

「ユーリはこうやって芋を焼いたことはないのか?」

「芋は煮物やスープ、炒めものとか何でも使えるけど、そうやって焼いた事はなかったかも」


 そういやこのエト芋ってエト周辺でしか栽培されていないんだよな。

 ユーリが知らないのも無理はないか。

 しばらくして芋が程よく焼けたので、木の枝で転がしてそれを取り出した。

 少し冷ましてから芋を半分に割ると黄金色の中身が現れる。

 俺は焼き芋をユーリに渡す。


「皮は硬いからな。少し冷ましてから剥いて食べるんだ」

「う、うん」


 ユーリは恐る恐る皮を剥いてから、黄金色の芋をパクッと食べた。

 たちまち彼女のブルーパープルの目がうるうると輝き、白い頬が紅潮する。


「美味しい……!」

「エト芋といって、他の芋よりも甘いんだ」

「ほくほくして、甘くて、凄く美味しい!!」


 嬉しそうに焼き芋を食べるユーリに、俺も何だか嬉しくなる。

 こうやって二人で食べるのもいいな……。

 俺がそう思いかけた時だった。


 ドドドドドドドッ!!


 地鳴りのような足音がこっちに近づいてくるのが聞こえる。

 何だ、何だ!?

 大型の魔物なんか滅多にここに来ないのに。

 俺とユーリが身構えていると、音がする茂みの方から巨大な兎が飛び出してきた。


「アランゴーラだ!!」


 俺が魔物の名を呼ぶ。

 こいつはとんでもなくデカいアランゴーラだな。

 クマよりも一回りはデカい巨大兎。毛はふわふわした銀色、目は赤くギラギラ輝いている。

 アランゴーラはこっちに向かって真っ直ぐ突進してきた。

 


落石魔法ロックフォール


 ユーリはとっさに落石の攻撃魔法を唱えた。どこからともなく人の頭よりも二回り程大きい石が落ちてくる。


 ドス――――ンッッッ!!!!


 石が頭に当たった巨大ウサギは、目を回して俺達の目の前で大きな音を立てて倒れた。

 その衝撃は一瞬地面が縦に揺れたくらいだ。

 アランゴーラはA級の魔物だ。

 毛皮は高く売れるし、肉も美味だ。


 

「魔物取引所で売ればいい金になる筈だ。しかしこいつはデカすぎて近くの町じゃ取り扱えない代物だな」

「……だよね」

「よし。ちょうど他の買い出しにも行きたかったし、大きな都に行ってみるか」

「大きな都って、エトの事?」

「いや、もっと魔物の取引が盛んな場所がある。そこは魔物の闘技場もあってな、冒険者達はそこで腕試しをしたりするんだ」

「あ、もしかして南にある都……ベルギオンのこと?」

「よく分かったな」

「うん。よくそこで採取した薬草を売っていたんだ。それにあそこで行われる闘技大会には勇者も参加しているから、よく行っていた都なんだ」


 そういやそろそろベルギオンで闘技大会が開催される時期だな。

 となると勇者もあの都にやってくるかもしれないな。もしかしてあのパーティーに鉢合わせする可能性もあるかな?

 ……いや、あんな都会だと鉢合わせどころか、逆に知り合いを見つける方が困難だろう。

 あんまり気にしなくてもいいか。

 それに……。

 前髪も伸び放題で顔も半分しか見えず、服もボロボロだった以前のユーリと違って、今のユーリは綺麗に整ったショートボブ、服装も女性らしいチュニックを着ている。

 今のユーリと以前のユーリとでは、印象がかなり違うからな。勇者達も気づかないんじゃないだろうか。


「ベルギオン、賑やかな所だよね。久しぶりに行きたいな。この山で採れた薬草もあそこなら高く売れるし」

 

 この家の周辺はどうも薬草が沢山生えているらしく、ユーリは時間がある時に採取していた。

 ベルギオンは多くの薬屋が立ち並んでいるからな。

あそこに行けば薬草が高く売れることを知っているということは、勇者達と旅をしていた時も、薬草を売っては路銀を稼いでいたんだろうな。

 


 勇者達のことは、ユーリ自身もあまり気にしていないようなので、俺達はアランゴーラと薬草を売りに行くべく、ベルギオンに向かうことにした。


 



 

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