第30話 ロイ対ニック②
不意を突かれたので、白を切る余裕がなかった。
顔を引きつらせる俺に、ニックはクスクスと笑った。
「その反応。やっぱりねー。あんた初対面の筈なのにさ、どっかで聞いたことある声だなって思ったんだよ」
「こんなおっさんの声、よく覚えてたな」
「うん。クマさんにはもう一度会いたいって思っていたからさ。あんたの声はよく覚えておこって思ったんだ」
「随分と気に入られたもんだな」
まさか声を覚えられているとは思わなかったな。
別に特徴がある声じゃねぇのに。
やっぱり史上最強の冒険者パーティーのリーダーは違うな。
こいつは強力なパーティーを作るために、常に感覚を研ぎ澄まし、情報感度を高めているんだ。
「それからあのユーリ=クロードベルが、何故あんなにもあんたのことを慕っているのか? それも気になっちゃって眠れないんだよね」
「そりゃ、俺の方が知りたいね。どう考えてもあんたの方が男前だし、冒険者のランクも上だからな」
「お褒めにあずかりまして。だけど、実際に彼女が選んだのはあんただった。俺としてはこのままじゃ納得できないわけ」
「……」
成る程な。
今や勇者と張り合えるんじゃないか? と言われるほどの実力を持つニック=ブルースター。
彼の活躍で救われた国、そして町や村も多い。輝かしい活躍をする彼の仲間になりたがっている冒険者は星の数ほどいるだろう。
しかしユーリはそんな英雄の誘いを秒で断っちまったからな。
悩みに悩んで断られるならまだしも、迷いもなく断られてしまったのだから、向こうとしても納得できないのだろう。
「でも、ここに来て確信したよ……ロイロット=ブレイク、やっぱり俺の見込んだ通り、あんたは強いな」
「何故、そう思う?」
「ここに来た気配、全く感じなかったから。俺に気配を感じさせなかった奴は今まで一人もいない」
「
「隠密魔法使ったとしても、もし相手が生半可な冒険者だったら俺には分かる」
「……」
どうも誤魔化しがきく相手じゃなさそうだ。正直に答えないと失礼に当たるよな。
俺はニックの目を見て、はっきりと答えた。
「少なくともお前よりは強い」
「……」
穏やかな笑みを浮かべているニックだが、目だけは鋭くなった。
恐らくそんな風に言われたことなかったのかもしれないな。
だが、本当のことだ。
「……信じられないな。万年B級と呼ばれているあんたが俺よりも強いなんて」
「どうしたら信じてもらえる?」
「それは言うまでもないだろう」
おもむろにニックは剣を抜く。
刃が青く輝いている。恐らく名のある名剣なのだろう。
あんまり気乗りはしないが、相手にしないと向こうも納得しないだろう。
俺も担いでいた大剣を構えた。
「うわ……
「この剣を知っているのか?」
「どんな強者も寄せ付けず、手に持つことが出来ない呪われた剣だ。あらゆる武器屋が持て余していて、つい最近エトの武器屋の爺さんが引き取ったって聞いている」
随分有名な剣だったんだな。
俺は手に持つことができたから、この剣に歓迎されているって事でいいのかな?
「とりあえず、とっとと片を付けるぞ」
「とっとと片付けないでよ」
俺の言葉にカチンときたのだろう。
ニックの表情は険しいものに変わり、剣を振り上げこちらに突進してきた。
青白く輝く刃が弧を描き閃く。
ギィィィィィン!
うん、いい感じに重みがある剣を打ち込んでくるな。
闘技場の軽やかな剣の音とは全然違う。
続けざま斬りかかってくるニックの剣。俺は全ての攻撃を受け流してから、最後のひと振りを後方へ飛び退いて避けた。
相手との距離が出来た所で、今度は俺から連続斬りを仕掛ける。
向こうは何とか躱すのが精一杯といったところだな。
「そんな大剣、よく軽々と持つな」
「俺には丁度いい重さだからな」
「化け物か」
ニックは軽く悪態をついてからバク転を繰り返し、俺から距離をとった。
そして掌を俺に向け呪文を唱える。
「魔法の実力はどうだ?
次の瞬間、巨大な氷柱が俺の頭上に落ちてくる。
俺は大剣でそれを薙ぎ払う。
氷柱は細かく砕け、無数の小さな氷の欠片が飛び散る。
息をつく暇は無い。
ニックがその隙にジャンプして、俺に斬りかかってきた。
ギィィィィィン!!
剣と剣がぶつかり合った衝撃で火花が生じる。
降下した勢いで先程より剣の重みが増す。
普通の人間だったら、真っ二つに斬られている。
剣を受けとめられたとしても、ただの鉄剣だったら折れていただろうな。
ニックは額に汗を浮かべながらも楽しげに笑う。
「力技で魔法を砕く奴、初めて見たよ」
「この大剣の力だな」
「剣の力だけじゃない……あんた……本当に人間か?」
ニックの問いかけに、答える代わりに、俺は呪文を唱えた。
「
「!?」
俺が唱えると、ニックの体は何かに弾かれたかのように吹っ飛んだ。
普通の人間だったら今の時点で大怪我をしているが、さすがSSランクの冒険者は鍛え方が違うな。
吹き飛ばされても無傷ですぐに立ち上がる。
そしてすぐに突進し、再び斬りかかってきた。
さっきよりもスピードが上がったな。
振り下ろされた刃を全て受け流す俺に対しニックは問いかける。
「……何故それだけの実力がありながらB級に甘んじているんだ?」
「B級でも充分に食っていけるからな」
「魔王を倒したいと思わないのか? A級以上になれば貴族や王室からの仕事も受けられる」
「生憎、地位や名誉には全く興味がない」
「成る程」
話し合いをしている内に、剣と剣の押し合いになる。
しかしそれは長く続かない。力比べなんざ十年早いわ、そこの若いの。
俺は剣ごとニックを押し返す。
ニックは尻餅をつくものの、すぐに剣を構える。
俺が剣を振り下ろしたからだ。
剣と剣がぶつかり、再び押し合う形になる。
「おっさん、どんだけ馬鹿力なんだよ」
「お前の鍛え方がまだ足りないんだ」
「俺、一応SS級の冒険者なんだぞ?」
「そんなもん人間が勝手に決めた階級だろ?」
ニックの額から汗が噴き出る。
俺の剣の重みに耐えられなくなってきたんだろうな。
剣を持つ両手が震えている。
「
どこからともなく聞こえてきた炎の攻撃呪文に、俺はすぐさま後ろへ飛び退き、その場から離れた。
炎の玉が俺とニックの間を通り抜け、近くの岩にぶつかる。
岩は粉々に砕け散った。
火炎弾が飛んできた方を見ると……緑のフードマントを纏った一人の少女が立っていた。
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