第27話 ニックとの再会①
こうして武器と防具をそろえた俺たちは、今度は薬や食料を手に入れる為にギルドの館へ向かうことにした。
何故ギルドの館に向かうかというと、あそこの敷地内は薬屋もあるし、食料品売り場もあり、しかも冒険者に特化した商品が沢山置いてあるからだ。
ただ買い物をする前に受け付けに行く必要がある。あそこで買い物できるのはギルド会員とその家族だけだからな。
俺とユーリが受付に行くと、何やらフル装備をした冒険者のパーティーがエリンちゃんの前に立っていた。
「そこを何とか教えて欲しいんだけど……」
「守秘義務があるので教えられません!」
手を合わせて頭を下げる青年と、ぷいっとそっぽ向くエリンちゃん。
何だかややこしい時に来てしまったな……買い物は別の場所でした方が良さそうだな、と俺が思った時、冒険者のパーティーの一人が俺たちを指差した。
「あ、万年B級のロイロット=ブレイク発見!」
無邪気な声で言うのはそばかすが印象的な赤茶髪のエルフ族の少女……いや少女に見えて、多分かなり上なのかも。
「万年B級は余計だ。誰だよお前は」
「アタイ? アタイは夕闇の鴉の古株、コンチェだよ。職業は魔法使い」
古株ってことは、やっぱり年上か。
エルフ族は魔法が得意だからな。
夕闇の鴉に所属しているということは、かなりの実力者なのだろう。
そういえばベルギオンではフードを深く被っていた魔法使いがいたけど、彼女のことだったのか。
S級からSS級まで、冒険者の中でも特に選りすぐりが集うこのパーティーは、入りたくても入れないからな。
「何故、俺のこと知っている?」
「アタイ、あの酒場にいたんだよ。勇者が仲間を追放するとこ見てたし、その仲間をあんたが保護していたとこも見てた」
「ああ、成る程」
まぁ、多くの客があそこにはいたからな……しかし、彼女も俺と同じく目立たないな。エルフは美形な奴が多いんだけど、彼女の場合、可愛いっちゃ可愛いけど驚くほど平凡な顔だ。
「あーあ、ロイさん……こんなタイミングで来るなんて」
エリンちゃんが頭痛でも覚えたかのように額に手を当てている。
何かまずい時にきてしまったみたいだな。
先程エリンちゃんに手を合わせていた青年がこっちに歩み寄ってきた。
あ、こいつはあの時の――
「俺は夕闇の鴉のリーダー、ニック=ブルースターだ」
相変わらず、男前だな。
ギルドの女性職員や、女冒険者の視線が彼に集中している。
どこに行っても華がある奴は違うな。
エリンちゃんは心配そうに俺達とニックを交互に見ていたが、他の客人が来たのでそれに応対することに。
SS級の冒険者となると、B級の俺なんざまるで相手にしないし、時には見下してくることも多いんだけどな。
ニックはとても友好的な笑みをこちらに向けていた。
敬意を払う人間に対しては、こちらも敬意をもって応対したい。
「フリーの冒険者ロイロット=ブレイクだ」
俺が自己紹介をするとニックは僅かに目を見張った。
だけどすぐにニコッと笑って俺に尋ねてきた。
「さっきコンチェも言っていたが、あんたがユーリ=クロードベルをあの酒場から連れ出したのだろう? 俺達はユーリ君に用がある」
ユーリ君か……そういや、ユーリは男として行動をしていたからな。
ニック達の間でもまだ少年という認識なのだろう。
自分の名前が出てきたものだから、ビクッと肩を震わせるユーリ。
彼女は恐る恐るニック=ブルースターの方を見上げる。
ニックはそんな彼女の姿を認め、驚いたように目を見張った。
「あれ……君、ユーリ君だよね? 以前会った時は男の子だったような」
「間違ってないです。男として活動していたから」
ニックから目を逸らしながら小声で答えるユーリに、ニック以外の夕闇のメンバーもざわざわとした。
獣人族の青年はぽーっとした顔でユーリをまじまじと見詰めて呟く。
「す、すごい可愛い……」
ドワーフ族の少女も目をキラキラさせて、はしゃいだ声をあげる。
「女の子となら友達になりたい」
コンチェはさして驚いている様子はなく、頬を指で掻きながら苦笑交じりに言った。
「アタイは気づいていたけどねー。それに君、エルフの血流れているでしょ? その目の色ってエルフ族の特徴なんだよ」
言われてみれば、ユーリのブルーパープルの目は珍しい。
だけどユーリはエルフ族のように耳が尖っているわけじゃない。もし、コンチェの言うことが本当だとしたら人間とエルフの混血の可能性はあるな。
「……両親のことは分からないのです」
「ふーん、そっかぁ。でも年より若く見られない?」
「見られることはありますけど、童顔で、成長も遅めだったので」
何ともいえない表情になるユーリ。
まだ信じられないのか、じっとユーリを見詰めるニック。
――おい、ジロジロ見すぎだっつーの。ユーリが目のやり場に困っているだろうが。
「……驚いた。こんなに綺麗な
「べ、別に綺麗なんかじゃないです!」
「何を言っている? 凄く綺麗じゃないか。貴族のお姫様でも君ほど綺麗な
「…………」
ニックに手放しに褒められて、ユーリは恥ずかしそうに俯いた。
やっぱりモテる野郎は違うな。お姫様って単語を自然と言っちゃうんだからな。
ニックは俺の方を見て、話を続けた。
「俺たちは最強のパーティーを目指している」
「何故?」
「魔王を倒すためだ。ここにいるメンバーは魔族に家族を殺されたり、連れ去られたりした奴らでね。魔族に恨みがあるんだ。そして頼りない勇者たちに代わって、この手で魔王を倒そうと思っている」
今の夕闇の鴉は勇者のパーティーよりも活躍しているって言われているもんな。
勇者が頼りないと思うのも仕方がないか。
「で、その仲間にユーリを引き入れたいと?」
「そうだ。ユーリ=クロードベルがあの勇者一行の要だったことは分かっている。彼女の懸命な補助があってこそ、あのパーティーは成り立っていた」
ニックはユーリのことをとても評価している。それについては好感が持てる。
ぱっと見た感じ、パーティーも仲がいいのか、とても陽気な雰囲気が漂っている。
エルフ族もいれば、獣人族の戦士もいる。それにドワーフ族の女性もいるな。
全員新しい仲間が出来るかもしれない、という期待に満ちた表情を浮かべている。
このメンバーと旅をしたら、ユーリも楽しいかもしれないな。
ユーリが夕闇の鴉のメンバーと楽しく会話をしている所を想像した俺は、ズキッと胸が痛んだ。
ニックはユーリに手を差し伸べて言った。
「ユーリ君、俺達の仲間にならないか? 君に相応しい活躍の舞台を用意するし、相応の年棒も約束する。活躍次第では君自身に王族や貴族の後援者もつくはずだ」
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