第18話 英雄対女戦士
B級冒険者、A級冒険者たちの試合がサクサクと終わり、残るはS級冒険者たちの試合だ。ちなみにSS級もS級と同じ部門として扱われている。
魔法使いたちにより、会場には防御魔法がかけられる。
基本的に大規模な魔法は禁止されているが、それでも客席を巻き込む可能性があるからな。
『最初の試合は、お、いきなり勇者ヴァンロスト=レイン選手の登場です。対する冒険者はS級の期待の新人スミス=リバー選手です』
新人の冒険者は二メートル半以上ある巨漢。全身鋼の筋肉に覆われ、金棒を持っていた。
魔物を相手にしているのと変わらないでかさだな。
試合開始のシンバルが鳴る。
男が金棒を振り上げる間に、ヴァンロストは既に動いていた。
振り下ろされた金棒を右に飛び退き避け、今度は横に振る金棒を後方に飛び退き避ける。
ヴァンロストは呪文を唱えた。
「
「しまった……!」
相手を見えない紐で束縛し、動きを封じる魔法だ。
ドグッッ!!
ヴァンロストレインは、新人冒険者の腹に剣をたたき込む。
もちろん使用されている剣は競技用の剣で刃がないものだ。
S級の巨漢は、目を見開いてその場に倒れる。
『勇者ヴァンロスト=レイン、鮮やかに勝負を決めました!』
実況の声に会場はわっと歓声が上がる。
やっぱりS級とSS級だと実力に雲泥の差があるみたいだ。
同じ部門として扱うのはどうかと思うが、S級以上になると競技人口が圧倒的に少なくなるからな。
闘技大会に参加しているSS級は多分、勇者とニック、あとローザぐらいなんじゃないのか?
勇者様はどや顔で観客に手を振っていた。
しかし次の試合で、勇者と同じくらいの実力を発揮する奴が登場する。
夕闇の鴉のリーダーである英雄ニック=ブルースターだ。
彼は魔物使いが操るS級の魔物を、落雷の魔法で感電させ、頭に一撃食らわせて気絶させたのだ。
主戦力の魔物を倒され、降参、と手を挙げる魔物使い。
ヴァンロストと同じくらいの歓声が客席から上がる。
『S級のアイスプテラスをあっさり倒しました!さすがニック=ブルースター!!』
実況の声が響く中、会場の客にも分かるよう解説も入る。
『死なないように魔物を倒すのは技術もいるんですよー』
まさにこの二人が今大会の二大スターって奴なんだろうな。
それ以外のS級の冒険者たちの試合も行われるが、あの二人程、鮮やかに試合を決めた人物はそうそういない。
試合の多くは判定で勝敗が決まり、相手に技を決めさせない逃げの戦法が多く……客達も何だか退屈そうだ。
勇者やニック以外にも人気の選手がいたりして、そういう人物は炎や雷などの派手な魔法を使う傾向がある……成る程、人気の選手はただ試合に挑むだけじゃなく、派手な魔法を使うことで観客達を楽しませているんだな。
闘技場はただただ戦いをする場じゃなく、娯楽の場でもあるからな。
『さぁ、次は第一のメインといっても過言ではない対決です。SS級冒険者ニック=ブルースター選手、SS冒険者ローザ=リナリー選手の対決です』
『ローザ=リナリー選手はつい最近勇者のパーティーに加わったと聞いています。どれ程実力を上げたか楽しみですね』
美男美女対決とあって会場は一段と盛り上がっている。
「お手柔らかに頼むよ、お嬢さん」
「それはこっちの台詞だよ、坊や」
……なーんて会話でもしてんのかな?
顔見知りなのか、妙に仲よさそうに話をしてんな。
勝負開始のシンバルが鳴る。
『さぁ、まずは睨み合いのようです』
『お互いになかなか隙は見せないでしょうからね。どちらが、どのタイミングで仕掛けるかですね』
互いの隙を待っていたら試合は永遠に終わらないからな。
ユーリも今までとは違う試合に、固唾を呑んで見守っている。
次の瞬間ローザが掌を前に差し出し、呪文を唱えた。
「
おお、なかなかの不意を突いたな。
たちまちニック=ブルースターの四肢は半透明な糸に絡みつかれ、動かなくなる。
それを確認したローザは目を見開き、ニィッと笑ってニック=ブルースターに斬り掛かる。
しかし身体は束縛できても口までは束縛できない。
「
ニックは炎の弾丸が飛ぶ呪文を唱えた。
込められた魔力がデカいな……一度じゃ数え切れない程の炎の玉が放たれる。
あれだけ多くの炎弾を見たのは久しぶりだな。
ローザはチッと舌打ちをして、次々と飛んでくる炎の弾丸を避ける。
その間に魔法無効の呪文を唱えたのだろう。束縛魔法が解け、動けるようになったニックは剣を構える。
『おっとニック選手。束縛魔法を解きました』
『先程の炎弾の数も凄かったですね』
『魔石や魔法使いの杖なしで、あの数は大したものです。』
今は試合用の剣だから、攻撃魔法を増強させる魔石付きの剣は使えないからな。
大会側も建物を破壊されたらかなわないから、攻撃魔法の威力が半減される状態の方が都合が良いのだ。
『ここからは剣の勝負になるようですね』
『二人とも動きが早いですからね。我々も目をこらして見ないと』
ローザはニックに斬り掛かる。
ニックはそれを受け流すと、身体を反転させ剣を薙ぐ。
ローザは後方へ跳び、それを避けた。
「お嬢さん、勇者のパーティーなんか辞めて、俺の所に来ないか?」
「金次第だね」
なーんて会話でもしていそうだな。
剣を打ち合いながら、二人は何やら会話しているんだよな。
もしニックが勇者のパーティー以上の金額を提示したら、ローザはすぐ夕闇の鴉に乗り換えそうだけどな。
「その前に坊やが私に勝てたらだけどね!」
かすかだがローザのそんな声が聞こえた。
うわぁ、嬉々として戦っているな。そもそもあいつは金も好きだが戦うことが好きなんだよな。
ローザの連続切りを悉く受け流すニック。
最後の剣を受け止めると、ローザの腹に蹴りを入れる。
「くっ……」
片目を閉じてローザが蹌踉めいた瞬間、今度はニックの方から連続切りを仕掛けてくる。ローザはその剣を全て受け流す。
「……あー、こりゃ勝負あったな」
俺の呟きに、ユーリはギョッとしてこっちを見る。
剣の打ち合いを続ける二人の試合を今一度見てから俺に尋ねてきた。
「勝負ありって、まだ互角に戦っている所だよね?」
「いや、わずかだが、ローザの方が動きが遅い」
落石の呪文を唱えるローザに対し、後ろに飛び退くニック。
標的を失った砲弾サイズの石はアリーナの床を打ちつけ、その部分は円形に凹む。
「
ニックが唱えるとローザの身体は目に見えない動物にタックルされたかのように吹っ飛んだ。
尻餅をついたローザはすぐに起き上がろうとするが、その前にニックがローザの首元に剣を突きつけていた。
ローザは苦笑いを浮かべ、首を横に振ると降参の合図である両手を挙げる。
『おおっと、ローザ選手。降参です。降参しました!ローザ選手!降参です』
『何度も降参言わないであげてね』
会場に歓声と拍手が巻き起こる。
魔法も交えた、見応えのある試合だったからな。
ニックは紳士的にローザに手を差し伸べる。
ローザもニヤッと笑ってから彼の手を取る……いつか自分の金蔓になるかもしれない相手だから、ここは仲良くしておこうと思っているのかもな。
「ローザはやっぱり実力あるんだなぁ」
「思い出しちまったか? あの時のことを」
あの時というのは、もちろん追放された時の事を指す。
しかし意外にもユーリは首を横に振った。
「あの人のおかげでロイに会えたから、逆に感謝しているくらいだよ」
「……そうか」
ユーリの言葉を聞いて俺はふと思う。
まさか、ローザの奴、ユーリが一文無しの状態で一人追放されそうになってるのを見かねて、ユーリを俺に託したとか?
――いや、まさかな。
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