第11話 その頃の勇者達①
勇者ヴァンロスト=レインは焦っていた。
いつもなら簡単に倒せる筈のゾンビリザード達。
いわゆる二足歩行の巨大なトカゲがアンデッドと化した魔物で、SS級でも苦戦することがある。いつもなら勇者である自分の手にかかれば一撃だ。
その筈なのに一撃で倒すことができない。
斬っても斬っても蘇ってくる。
こんな大群ぐらいイリナの火炎弾で一網打尽に出来るはずなのに、彼女が一度に数十発、炎の弾丸を放ってもゾンビは倒れずに、怒濤の如くこっちへやってくるのだ。
「ちょっとぉぉぉ!あたしの火炎弾が効かないんですけど」
魔法使いのイリナが信じられない、と首を横に振る。
先程から何度炎の弾丸を放っても、ソンビリザードに致命傷を与えることが出来ずにいた。
「
そこに神官であるカミュラが前に出て、治癒魔法を唱えた。
ゾンビリザードはけたたましい叫び声を上げ、まるで蒸発したかのように消える。
勇者ヴァンロストはカミュラを褒める。
「よくやった、カミュラ」
「アンデッド系統の魔物は、治癒魔法と炎の魔法が有効ですからね」
ふう、と息をついてから答えるカミュラに、イリナは腑に落ちない表情を浮かべる。
「で、でもあたしの炎の魔法効かなかったよ!?」
「炎の魔法より治癒魔法の方が効き目があるのです。あと、あなたのレベルの炎じゃ、ゾンビリザートにとって軽い火傷です。致命傷にはなりません」
「嘘……!! だって今まではちゃんと効いてたよ!?」
「当たり前です。あの時はユーリの魔法強化があなたにはかかっていましたから」
「え? そんなのかかってたの? ?」
「ちなみにヴァン、あなたの身体にも身体強化魔法がかかっていた筈です」
ユーリが何か呪文を唱えていることは知っていたが、まさか自分に魔法強化がかかっているとは思っていなかったイリナは、ショックな表情を浮かべる。そしてそれはヴァンロストも同じで、自分に身体強化の魔法がかかっているなど分からなかった。
戦っている内に力が漲るような感覚があったが、アレが実はそうだったのか?
「ゾンビリザードはSS級でも倒すのが難しい魔物です。S級のあなたが簡単に倒せる相手じゃないのよ」
「だって強化魔法がかかっているなんて分からなかったもん」
「あんたがユーリの呪文を聞いてなかっただけでしょ?」
カミュラの言葉に、ヴァンロストは内心ギクッとする。
彼もまた、ユーリが遠くで何か呪文を唱えているという認識しかなく、それがどんな効果をもたらしていたか知る由もなかった。
イリナは膨れっ面になってカミュラに訴える。
「じゃあカミュラが魔法強化かけてよ!」
「私は自分を守るのが手一杯です。あなた達にまで構っている余裕なんかありません」
淡々と答えるカミュラ。
そして彼女は苦々しい表情でヴァンを見る。
「こういう重労働を押しつけるの、やめてくれません?」
「重労働? 治癒魔法をかけるぐらいお前ならわけないだろう?」
「治癒魔法を攻撃魔法として使うのは魔力の消費率が激しいのです。しかもあんな多数のアンデッド相手だったら、今の私の魔力だとすぐに底を尽きます」
苛立ちが隠せないのか、早口で抗議するカミュラの言葉に、ヴァンは耳を塞ぎたくなった。そんなヒステリックに怒らなくても良いではないか。
「そもそも何故ユーリを解雇したのです!?」
「あ、あいつ、そんなに役に立ってないだろ」
「いないよりいた方がいいでしょ!? 面倒で地味な作業や嫌な作業は全部やらせればいいし、魔力だけはやたらにあったから、治癒魔法も補助魔法も使い放題だったし。何故、彼を解雇したのです? しかも私がいない間に」
「……」
もちろん、カミュラがいたら反対するに決まっているからだ。
彼女はユーリの能力を過剰評価しているきらいがあった。
便利な手駒として重宝していたようだが、ヴァンからすればもう少しカミュラが頑張れば良い、と思っていた。
ユーリを辞めさせるには、カミュラは邪魔だったから、不在の間に解雇してやったのだ。
「あんたら、休んでいる暇ないよ。またどんどん沸いてきてんだから」
一人元気にゾンビリザードを斬りまくるローザ。さすが金がかかっているだけに、その働きぶりは見事なものだ。倒しても倒しても起き上がるゾンビリザードを倒れるまで斬っている。
イリナとカミュラがごちゃごちゃ言っている間に、半数のゾンビリザードを退治していた。
ヴァンロストは舌打ちしながら、ゾンビリザードを斬ることに専念する。一撃では倒せないが、何度か斬っている内には倒れる。
(まさか、今まで簡単にゾンビリザードを片付けられていたのは、あいつがいたからなのか……?)
にわかには信じがたい。
離れた場所で、ぼそぼそ何か言っていただけにしか思えなかったのに。
(確かにあいつも昔は優秀だった。村の連中も俺だけ旅に出すのは心許ないからという理由で、ユーリを俺に付けやがったのだから)
最初は自分も強くはなかった。
幼い頃から、勇者だからという理由でやりたくもない勉強をさせられていたし、剣術や魔法も強制的にやらされていた。
何度、勇者を辞めたいと思ったか知れない。
一方、ユーリは現役の王国の騎士から天才と言われる程、剣の才能を発揮していた。
宮廷魔法使いも「自分の元で働かないか?」と熱心に誘うほど、魔法にも非凡な才能があったようだ。
村を襲撃する魔物も何度か倒していて、村人からは「ユーリが勇者だったら良かったのに」という声がした程だった。
村から出て旅立つ年齢になっても、自分はしばらくの間、村から出て行くのをごねていた。
今の実力で旅なんか出たら、一日で死ぬ、と思っていたから。
そんなある日。
好意を寄せていた村の少女が魔物に襲われそうになった時、自分の中で光が目覚めた。
身体中から溢れんばかりの力。
それまで初級の魔法しか使うことができなかったのが、瞬く間に中級、上級の魔法も使えるようになった。
身体の筋肉も発達し、人並み以上の体力、腕力を発揮するようになった。
王国の騎士からは「奇跡」と言われ、宮廷魔法使いからは「神の力だ」と称えられた。
村を襲う魔物もユーリが駆けつける前に倒せるようになり、ようやく自分の力に自信が持てるようになった。
そうして意気揚々旅立つことになったわけだが、それでも村人達は自分のことが心配だったようで、ユーリを護衛にするよう懇願してきた。
仕方がないから、奴を連れて行くことにしたが、いつかこいつを切り捨ててやろうと思っていた。
力に目覚めてからは、どんどん実力が伸び、強力な魔物を悉く叩き斬ってやった。
しかし、まだまだユーリの方が自分より目立っているのが面白くなかった。
だから勇者の見せ場を残すよう、奴に命じた。
剣があるとうっかり魔物を殺してしまうので、ユーリの剣は売り払ってやった。
すると奴はあまり戦うことをしなくなった。
後ろで何かをボジョボジョ唱えるだけの役立たずになった。
その間に自分は冒険者の階級も一気にE級からSS級に昇級。ユーリも昇級試験を受けたいと言ってきたが、役立たずに昇級は不要だと言ってそれを禁じた。
そして勇者にふさわしい仲間を増やすことにした。
可愛い魔法使いの少女イリナ。
実力はS級だ。自分が勇者であると名乗ると、簡単に付いてきた。
彼女はとてもチョロく、少し口説いただけですぐに自分の恋人になった。
その次がカミュラ。
女性の神官でイリナと同じくS級の冒険者だ。
彼女は魔物の生態や植物に興味があり、より多くの実験台となる魔物を捕らえる為に自分に付いてきている女だ
かなりの美人だが、こちらが口説いてもどこ吹く風。それでも彼女を連れて歩くだけでも、ステイタスだし気分が良かった。
先ほども記述した通り、カミュラはユーリを過大評価していた。
最後に仲間になったのがローザ。
肉感的ないい女だ。
こっちが口説くまでもなく、仲間に入れてくれ、と向こうから誘ってきた。報酬は法外だが、それだけの仕事をする自信があると主張してきたのだ。
金がいるとなると、人件費を削減しなければならない。だから、役に立たなくなったユーリを解雇したのだ。
自分以外の男がいなくなり、今やハーレム状態。
良い気分で旅が続けられると思っていたのに――――
襲いかかってくるゾンビリザードを倒しながら、ヴァンは唇を噛む。
苦戦しているのはたまたまだ。
その証拠に、ユーリは地味な補助魔法を唱えていただけ。
突っ立っていただけじゃないか。
補助魔法を唱えていたぐらい、何だというのだ。そんなことカミュラにも出来ることだし、いざとなれば自分だって出来る。ただ勇者は補助魔法を使う機会がないし、そういう地味な技は極力使いたくなかった。
たかが補助魔法だ。
今まで苦戦していなかったのはユーリのおかげとは到底思えなかった。
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