第6話 B級冒険者(?)とE級冒険者(?)
ギルドの館エト支部――
俺たちは計十頭のサーベルホワイトウルフを
ここでは倒した魔物の牙や皮、肉などを買い取ってくれる。
血なまぐさい場所かと思いきや、カウンターは小綺麗にしてある。
俺は収納玉を、店員である眼鏡をかけた猫獣人族の青年に渡すと彼は頷いて、カウンターの奥にある扉の向こうへ消えていった。
あっちは解体作業場に繋がっているんだよな。
しばらくすると、猫獣人の青年はただでさえ大きな猫の目を更に大きくして、こっちにやってきた。
「あ……あの沢山のサーベルホワイトウルフ、お二人で倒したのですか!?」
「ああ、そうだけど?」
「失礼ですが階級は」
「B級とE級だ」
「……」
青年はしばらくの間疑わしげな眼差しを向けてから、またドアの向こうへ消えた。
上役と相談でもするのかな?
魔物自体が本物かも疑っているのかもしれないな。
少し経ってから、上役であるドワーフ族の爺さんがドアを開けて出てきた。彼は俺の姿を認め、パッと顔を明るくした。
「何じゃ、ロイロットかいな。お前さんだったら、あの数のサーベルホワイトウルフくらい片付けられるわな」
「ああ、今回はこいつもいたけどな」
「ほう?お前さんの女房かの?」
「違う! 仕事のパートナーだ」
俺は顔を真っ赤にして否定した……少しムキになっちまったか。
隣にいるユーリも恥ずかしそうに俯いている。
「あの孤高のロイが相方ねぇ……」
意味深に笑うな、ジジイ。
何が言いたいんだよ。
俺がこそばゆい気持ちになりかけた時、獣人族の青年が出てきて、恐る恐る老人に伺う。
「あの……この人たちが、本当にあの魔物を」
「おう、新人。よく覚えておけ。こいつは自称B級だ。本当はそれ以上の実力があるのに、面倒くさがって、昇級試験を受けてないんだ」
「そ、そうだったんですか!?」
「この人以外にも、名乗っている階級と実際の実力が違っていたりする奴が、たまにいたりするからな。よく見る目を養っておけよ」
「は、はい!」
二人の会話を聞いていたユーリは、驚いたように目を見張る。
そして頬をぽりぽり掻いて尋ねる。
「えーと、ロイって本当は何級なの?」
「俺も分からん。まぁ細かいことは気にするな」
実際B級より上の昇級試験を受けたことがないので、現在何級に当たるのか俺も良く分からない。
だからそうとしか答えようがなかった。
ドワーフの老人と獣人族の青年は作業場に戻り、サーベルホワイトウルフの査定をしてくれている。
その間俺達は、兎獣人の店員である女性が出してくれたお茶を飲みながら、店内に設置されたベンチに腰掛けて待つことに。
お茶が飲み終わった頃、獣人族の青年がノートを手に持ってこっちにやってきた。
「サーベルホワイトウルフは計十頭、毛皮は六十万ゼノス……牙は五百万ゼノスで買い取らせて頂きます」
ゼノスというのは、この世界の通貨だ。
ゼノリク神のゼノから名前をとっているという説があるが、その点については諸説あるようではっきりしていない。
とにかく魔物の毛皮と牙が高く売れたので、かなりの額の金が手に入ったわけだ。
「計五百六十万ゼノスだったら、悪くない買値だね」
「そうだな」
ユーリも今まで勇者のパーティーと冒険している時に、魔物取引所は出入りしているみたいだな。
世間知らずなお嬢さんってわけじゃないから、そういう点では話が早い。
報酬金とサーベルホワイトウルフが売れたお金は、きちっと折半することに。
その中から宿代、服代、それから剣の代金を返してもらう事になった。
◇・◇・◇
「あ、あの……住む所を探しているんだけど、どこか空いている部屋はない?」
ギルドの受付嬢であるエリンちゃんに尋ねるユーリ。
エリンちゃんは頷いて、賃貸物件の資料を持ってきて調べてくれる。
報酬金と魔物を売ったお金で、剣代、宿代、服代を俺に返しても、まだまだ余裕がある。
ギルド館内にある寄宿舎の部屋を借りることも出来るな。しばらくはそこで暮らせるだろう。
とはいっても一生そこに暮らすわけにはいかない。
いつかはちゃんとした自分の家が持てるようになった方がいいだろう。
生活の軌道が乗るまでは、暫く相方として雇うことにしようか。
俺がそんな事を考えていた時、住宅資料とにらめっこしていたエリンちゃんは申し訳なさそうにユーリに言った。
「ユーリさん、ごめんなさい。ギルドの館にある寄宿舎は今、空いている部屋がないの。それに下宿先も今、空きがなくて」
「そ……そっか」
がっくり肩を落とすユーリ。
ギルドの寄宿舎は安い割に綺麗だし、設備も整っているから人気なんだよな。
下宿先もないんじゃ、しばらくはどこかの安宿ってことになるけど、女の子一人を泊めるにはちょっと不安なくらい治安が悪い所にある事が多い。
ユーリは冒険者だし、今までも安宿に泊まった経験もありそうだから大丈夫な気もするが。
と、その時にこやかな顔のエリンちゃんと目が合った。
え? 何、その顔。
「そういうわけで、ロイさん。よろしくお願いします」
「は?」
「ロイさんの家、一人で住むには広いって、以前愚痴ってたじゃないですか」
それって、ユーリが俺の家に下宿するってか!?
エリンちゃんは手を合わせ、お願いのポーズを取る。
「しばらくの間、ユーリ君の面倒見てあげてください」
「……」
エリンちゃんはユーリのことをまだ男だと思っている。今もチュニックの上に胸部を覆うプレートで武装しているからな。
そのことを説明しようと口を開きかけたが、ユーリが俺の袖を引っ張る。
何事かとそっちへ顔を向けると、ユーリは捨てられた仔犬みたいに縋るような目でこっちを見ていた。
うぐっっ……そんな目で見るんじゃない。
き、君はこんなおじさんと一緒に暮らしてもいいってか!?
言っておくが、むさ苦しいことこの上ないぞ。
それに一人気ままだった俺の生活が…………いや、だから、そんなうるうるした目はやめろ。
うーーん……ここで見捨てるわけにもいかないしな。
こんな可愛い娘が野宿をしていたら、瞬く間に飢えた狼どもの餌食になるし、ろくでもない野郎の家に転がり込むようなことがあってはならない。
「仕方ねぇな。しばらくの間、ウチにいろよ」
「い、いいの?」
「その代わり飯は当番制な。掃除も当番制だぞ」
「あ、ありがとう!!ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
ふ、ふつつか者って、改まった口調で嫁入りするみたいに言うな!
あー、いい年こいて顔が熱くなってんじゃねえよ。俺も。
こうして気ままな一人暮らしとおさらばすることになったわけだが……何だろうな、このソワソワ感は。
俺はひょっとして嬉しいのだろうか?
平穏で地味な生活を続けるのなら、勇者の元連れだった奴と深くかかわらない方がいいのだろうが。
それでもユーリの笑顔を見たら、この先何が起こってもかまわないと思っている自分がいた。
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