第5話 君、本当にE級冒険者!?
今回の仕事はトワイ村近隣の森に生息するサーベルホワイトウルフ達の退治だ。
トワイ村は酪農を生業とした人々が多く住む村だ。最近羊を襲いにサーベルホワイトウルフが村の牧場にやってくるらしい。
一度目を付けられたら、村中の羊がいなくなるまでやってくるからな。
サーベルホワイトウルフは魔物にしては知能が高い。個体だとB級の魔物ではあるが、あいつらは仲間と連携して狩りをする。
サーベルホワイトウルフの住処は森の中にある洞窟。
中は迷路のように入り組んでいる。
ただ中はライトマッシュという名のキノコが生息しているので明るい。
このキノコは暗闇の中で光る性質を持つのだ。
「
両手を組んで呪文を唱えたのはユーリだ。
聖なる光は周辺に魔物を寄せ付けない光のベールに覆われる魔法だ。
……確か、上級の神官が唱える高度な魔法だったような? 俺の記憶違いか。
洞窟にはサーベルホワイトウルフ以外の魔物も住んでいる。
蝙蝠形の魔物がこっちに近づいてくるが、聖なる光を嫌がりすぐに逃げてゆく。
こいつはいいな。
治癒魔法と解毒魔法以外、俺はあんまり神官が使うような魔法は使わない。聖なる光がこんなに便利だとは知らなかった。
「ユーリは神官だったのか?」
「いや神官じゃないよ。勇者のパーティーの中に神官はいたけどね。彼女の方がもっとすごい使い手だから」
「神官なんかいたっけ? あの中に」
「ああ、僕が追放された時、彼女はあの場にはいなかったよ」
「神官は女性なのか」
「うん。僕は一応男として加わっていたけど、実際はヴァン以外のメンバーは女性だったなぁ」
何だよ、そのハーレム状態は。
まさかユーリを追い出したのって、チームを完全なるハーレムパーティーにする為だったんじゃ――いやいや、たまたま実力あるメンバーが女性ばっかりだった、と思いたい。
実際、ローザは金銭至上主義ではあるが、実力は確かだからな。
そんな不純な動機で追い出されたとしたら、ユーリの方はたまったもんじゃないだろ。
聖なる光のおかげで、魔物に行く手を阻まれずに済んでいる為、俺たちは話をしながら歩けるくらい余裕があった。
「ロイはどこかのパーティーに所属しているの?」
「俺は
「そうなんだ……あの……冒険者って無所属でも食べていける?」
「ある程度実力があればな」
パーティーを追放された身としては、しばらくの間は一人でやっていきたいと思うわな。
となると、無所属冒険者の先輩としては、一人で冒険生活をやっていく上での心構えとか伝授してやらねぇとな
しばらくして俺達は同時に立ち止まる。
グルルルル……
ガルルルル……
グル……グルルル……
ガルルルル……ガルル……
洞窟の中は明るいものの、先が見通せる程明るくはない。先の方は暗くて見えない、
その先にある闇の中、いくつもの唸り声が聞こえてきた。
洞窟の最奥地にあるサーベルホワイトウルフの住処に近づいてきたようだ。
洞窟の向こうから数頭のサーベルホワイトウルフが姿を現す。ウルフと名前がついているが、狼の姿に似ているからその名前がついただけ。
実際は狼とは似て非なるもの。
まず全長が人間の数倍だからな。銀色がかった白の毛は、明かりに照らされ美しく輝いている。
そして剣のようなむき出しの牙。
奴らは相手が人間二人と分かると、躊躇なく飛びかかってきた。
食い殺そうと突き立ててくる牙を俺は剣で受け止める。
そして力任せに押し返す。
巨体の魔物の身体は後退し、一瞬よろめいた。
まさか人間に押し返されるとは思わず、やや怯んだ表情を浮かべてるな。
その間に俺の横を走り抜けるサーベルホワイトウルフがいた。
後方支援をしていたユーリをめがけてそいつは走っている。
「
俺が呪文を唱えると、ユーリを狙っていたサーベルホワイトウルフの脳天めげがけて雷が落ちる。
魔物の身体が海老のように反り返った。
感電し、ぴくりとも動かなくなったサーベルホワイトウルフ。
さらに岩陰から多数のサーベルホワイトウルフが出てくる。
思った以上に数が多い。
なかなかの大家族だったようだ。
まともに剣で相手にするには数が多い。
俺一人ならともかく、ユーリを守りながらだと少し面倒だ。
(
広範囲の敵を一気に片付ける事が出来る炎の魔法呪文を唱えようとしたが、ユーリの方が先に呪文を唱えていた。
「
呪文を唱えた瞬間、サーベルホワイトウルフの身体は見えない何かにぶつかったかのように、跳ね返った。
俺は目を見張る。
ユーリの目が鋭い。俺が貸した剣を引き抜き、次々と襲いかかってくるサーベルホワイトウルフを斬り捨てる。
そして群れのボスであろう、一際大きいサーベルホワイトウルフがユーリに飛びかかって来た時、彼女は剣を横に薙ぎ、躊躇なくその首を刎ねた。
サーベルホワイトウルフは、首がない状態で歩いていたが、しばらくして崩れるように倒れた。
五、六頭のサーベルホワイトウルフがあっという間に倒されてしまった。
おいおいおい、あっさりB級クラスの魔物を倒しているじゃねぇか。
しかも五、六頭をたった一人で。
どこがE級なんだ!?
下手すりゃA級……もしかしてS級なんじゃないのか?
しかし驚く間もなく、残る数頭のサーベルホワイトウルフが一度に襲いかかってきたので、俺も剣を振るった。
常人の目からは剣の光がいくつかの弧を描いたようにしか見えないだろうが、俺は一瞬にして魔物たちを切り伏せた。
彼女に負けてはいられないからな。
ちょっとした対抗心が芽生えかけたその時、ユーリはびくついたように俺の方を見た。
「ご、ごめん。僕が敵を片付けて」
「へ……? いや……俺としては助かったけど」
「え……でも、ロイの見せ場を取るような真似をしてしまったし」
「見せ場!? んなもんいるかよ。自分の身は自分で守ってくれた方が俺だって助かるし」
そう言いかけて俺ははっと目を見張る。
……まさか。
いや、まさかそんな馬鹿な話あるだろうか?
「なぁ、もしかして前のパーティーにいた時、仲間の見せ場を残すように戦えって言われていたのか?」
「う、うん。勇者がとどめを刺さなければ、周りに示しがつかないと、言われていたので」
「…………」
どんな小物だよ、そりゃ。そんな奴が勇者とは笑わせるな。
もしかしてE級なのにも事情がありそうだな。実力が本当にE級だったら、サーベルホワイトウルフを倒せるわけがない。
「ユーリ、昇級試験は受けないのか? 今の実力ならS級でもいけると思うけどな」
「え!? そんな訳ないでしょう?」
「いや、この魔物はB級冒険者が相手にする魔物だぞ?」
「そうなの? 仲間達はほんの雑魚だし、僕が倒せるのは当たり前だって言ってたけど」
「そりゃ勇者様達からすりゃ雑魚かもしれないが……何故、昇級試験を受けて来なかったんだ?」
俺の問いかけに、ユーリは悲しそうに俯いた。
そして震えた声で答える。
「……僕のような役立たずには、試験を受ける資格はないとヴァンに禁じられていたから」
「ヴァン?」
「ヴァンロスト=レイン。勇者の名前だよ。僕は幼なじみだったのでヴァンと呼んでいたけど」
現世の勇者はかなりのクズだな。昇級を禁じるなんて、仲間のすることじゃねぇ。
何でそんな事をするんだよ。ユーリが自分と同等になるのが嫌だったとか?
ユーリが魔物を完全に倒すことすら嫌がっていたからな……その可能性が一番高い。
俺は首を横に振ってから、ユーリの肩を叩いて言った。
「俺はそんなこと禁じない。お前は全く役立たずじゃない。今日のように自分の身は自分で守ってくれた方が俺も助かる」
「ほ……本当に?」
「俺は見せ場なんかいらないからな。昇級試験も受けとけよ。E級のままじゃ、ろくな仕事が入って来ないからな」
「……」
ブルーパープルの瞳を潤ませて泣きそうになるユーリの背中をトントンと叩いた。
こいつはしばらくの間、俺が守らないといけないな。
クズ勇者によって間違った概念を植え付けられているみたいだし。
ユーリが潤んだ目で俺の顔を見つめる……う……可愛い……。
そんなにじっとこっちを見るな!
君に見詰められると、おじさんは、目のやり場に困るんだよ。
今回の仕事で、多くのサーベルホワイトウルフを倒すことができた。依頼料の他に魔物を売ることで得る収入も多額になる。
これで俺への借金も返済できるし、新たに住む所も得ることができるはず。
今はまだE級だから、俺も何かとフォローしてやらなきゃいけないが、彼女ならすぐにでも上級の資格を取ることができるだろう。
こんだけ可愛い娘だ。
きっと華やかな舞台で活躍できる冒険者になれる筈。
あの馬鹿勇者達が後悔するぐらいの冒険者になって欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます