第3話 ユーリから見たロイロット

 僕の名前はユーリ=クロードベル。

 先程勇者のパーティーを追放されてしまったE級の冒険者だ。

 その場に居合わせていた冒険者、ロイが僕を保護してくれなかったら、どうなっていたことか。

 本当に助かった……あのままだと一文無しで路頭に迷う所だった。

 ロイはB級冒険者だって言っていたけれど、S級の冒険者でもなかなか乗ることができないワイバーンに軽々と乗っていた。

 本当の実力はB級じゃないって事?

 でもローザは万年B級だって言っていたし……何だか不思議な人だ。

 ちょっと謎めいた人だけど、とても親切な人であることは確かだ。

 今日も一緒の宿に泊めて貰うことになったし。

 こっちの宿代も立て替えてもらっているから、出来るだけ早く宿代を返したい……と思った時、ロイがタオルを一枚腰に巻いてお風呂から出てきた。


 は……初めて、男の人の裸を見てしまった。


 僕と違って鍛え抜かれた鋼の身体だ。

 唯一、一緒に行動していた男性――勇者とは寝食は共にしていたものの、野営の時はテントの中には入れて貰えなかったし、宿の時も僕だけは違う宿だったから。

 異性の身体をまともに見たのは初めてだった。

 男の人の身体ってそうなんだよね……鍛えたらあんな風になるんだ。

 一つ気になったのが、ロイの右肩に痣のようなものがある。

 痣にしてははっきりした模様が描かれている。

 歯車のような形をしたその模様は、古代から伝わる神文字に似ていた。

 確か、勇者が持っていた石にも似たような模様があったような……? 

 肩の模様について尋ねてみたかったけど、初対面だし、あんまり裸を見るのは失礼だと思い尋ねることは出来なかった。

 


 ロイにお風呂に入るよう勧められたので、脱衣所に入った僕は、ふうと長い溜息をついた。

 そして自分の身体を改めて見る。

 どう頑張って鍛えても、僕はあんな屈強な身体にはなれない。

 男として生きてきたせいか、年頃になってもなかなか女らしい体つきにはならなかったけど、最近になって 胸が大きくなり、身体も丸みをおびてきた……もう男として生きるのに無理があったんだ。

 ローザはロイのことを地味だって言っていたけど、僕から見たら彼は全然地味じゃない。凄く男らしい人だ。

 無精ひげが目立つけど、よく見たら顔は整っている。

 金色の髪もさらさらだ。

 それにこちらに気配を感じさせない立ち振る舞い、あの大きなワイバーンを軽々と乗りこなす姿を見て、僕よりも強いことが分かった。


 ……何でだろう?


 颯爽とワイバーンを乗りこなすあの人の姿思い出したら、何故か胸がドキドキしてきた。

 あ、そうだ。胸と言えば、もう胸も隠す必要はないな。

 僕は胸に巻き付けていた布を全部とってから、ふうっと息をつく。

 


 もう勇者のパーティーを解雇されたんだし、男の振りをする必要はない。

 これからは堂々と女として生きることが出来るんだ。

 浴室に入ると……わ、お風呂だ。

 木のいい香りがする。

 村ではお風呂というものがなくて、基本的には魔法で身体を綺麗にするか、泉で汗を流していたくらいだ。旅に出るようになってからも、僕が泊まっていた宿は風呂なしが当たり前だったから、お風呂自体が初めてだった。

 身体を洗ってから、僕はドキドキしながら湯船に足を入れた。

 ああ…………あったかい。

 身体全身、温かさに包まれている。

 ほう、と息をつくと今までの疲れが取れていく感覚がした。

 お湯に浸かるって何て気持ちがいいのだろう?

 とても幸せな気持ちになる。

 僕は役立たずとして仲間に追われた人間なのに。

 こんな幸せな気持ちになってもいいのかな?


 

 ずっと湯船に浸かっていたい気持ちだったけれど、流石に逆上せそうになったので僕は浴室を出た。

 脱衣所で服を着ようと思ったら、あれ……服がない。

 代わりに真新しい服が用意されていた。

 ロイが用意してくれたのかな? このまま着るのは悪い気もするけど、元の服もなくなっているし、この服を着るしかないよね。

 恐る恐るシャツに手に通してみる……ああ、新しい服って、こんなに肌触りがいいんだ。

 しかも厚手なのに軽い。

 僕は初めて胸に布を巻かない状態でに服を着た。

 あああああ……すっごい身体が軽い。

 これからはもう胸をきつく巻かなくてもいいんだ! 

 勇者のパーティーを解雇された時は凄く落ち込んだけど、でも今は何だか開放感の方が勝っている。

 もう、僕は自由なんだ。

 

「す、すまない……君がその男だと思って、男物の服を用意してしまった」


 ロイは僕が女だと知って、とても驚いていた。同時にすまなさそうにもしていた。

 僕自身、女だとバレないようにして暮らしていたし、気にしなくてもいいんだけどね。

 一人称も僕から私に変えようとしたけど、ロイは無理して直さなくていいって言ってくれる。

 ロイは優しいな……。

 一緒に話をしていても楽しいし、何より僕に笑いかけてくれる。

 今まで一緒にいた仲間は、笑いかけてくれた事なんかなかった。

 

『ユーリ、邪魔だからあっち言って』

『お前は俺の視界に入ってくんな』

『まだそこにいたのですか?』


 ……あんなに煙たがられていたんだから、僕があのパーティーにいる必要はなかったんだよね。

 ずっと一緒にいた仲間たちより、初対面であるロイと一緒にいる方が居心地良く感じるなんて。

 勇者ヴァンロストには立派な仲間がいる。

 皆S級以上の冒険者ばかりだ。それに僕が出来ることといったら、戦いの時に補助魔法で皆を助けたり、野営の時環境のいい寝床を整えたり、温かい料理を提供するぐらいしか出来ることがない。

 そういった雑用は僕じゃなくても出来るって、他の仲間達は言っていたし。

 もう僕の役割は終わったんだ。

 これからは自分一人で生きていけるようにならないといけない。

 ただ、その前に、ロイに借りている宿代と服代を返さないといけないけどね。



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