十月と十日の境


 依然として経緯を省いて結論から書く。

 僕たちは精子提供を受けることにした。



 、「


 手段の詳細については記さないが、これは僕たちにかねてより在った縁が繋いだ、可能にしたことだった、とだけ僕は記す。そして僕たちがそのようにした理由はシンプルだ。僕たちはどこの誰の子かわからない子を育てるのが――たとえであっても――嫌だった。もちろんお互い思うところはそれぞれあったが、僕たちは最終的に意見を一にした。つまり、「そういうこと」をするのであれば、に頼みたいと僕たちは考えた。当然ながら、その事実は周囲には伏せた。お互いの家族にも――だから父母にさえ、秘した。躊躇はなかった。それがなくなるまで、僕たちは言葉を重ねたから。



 そうして精子提供は成功して、妻は無事に懐妊した。

 僕は「おめでとう」と言って、妻は「ありがとう」と笑った。


 そうしたら、ほら、問が生じてきた。

 僕のなかに、ほら、問が内在しはじめた。


 父性は、父になる前から内在するのか?

 そうではなく、子が生まれるから生じるのか?



 だとしたら僕は――このやりかたで、はたして父になることができるのか?



 

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