第42話 地下の主 2
更に下の階は自然の洞窟に近い、
「
「ああ、その方がいい」
既に左手には
何度かの襲撃を受けていたのだ。
敵は
そしてさらに厄介なのが
「休息所でやすね」
ゲインヴの言う通り洞窟の奥が明るい。
この洞窟内にはところどころに輝く泉の湧く
「助かりますね。これがないと地図が作りづらいです」
「この休息所も不自然だがな」
「地下は辛いですけど、わたくしは休息所のお陰で落ち着けます」
お兄さんの横にぴとっとくっついて座る。
正直、こんな秘密の癒し場でお兄さんと二人きりで居られるのはちょっと嬉しい。
ゲインヴは居ないことにして襲っちゃいたいくらい。
ビクッ――とお兄さんが反応する。
私に対してかと思ったけれど、それは違った。
耳を澄ますお兄さんとゲインヴ。
「どっちだ?」
「こちらの横穴でやすかね?」
荷物を抱え上げる二人、私も続く。
横穴を、鬼火を先行させて進むと確かに物音が響いてくる。
結構な距離なのか、ゲインヴが先行して早足で進む。
明るい……別の休息所が見えてくると、ミルゴサの騒ぐ声が聞こえてきた。多い気がする。
くい――と休息所の手前でゲインヴがお兄さんを手招きする。
私も続くと、その先ではミルゴサ同士が争っていた。ただ、内輪揉めとは違う。その中に
「助けよう」――お兄さんが小さく呟く。
お兄さんは
見事なまでに全てのミルゴサがふらふらと倒れ、眠りにつく。
ただ一人を除いて。
「もしやルメルカ様でいらっしゃいますか?」
お兄さんは片膝をつき、目線を下げて問いかける。
私とゲインヴも倣う。
「いかにも、
我々ノレンディルの民は、
「はい、戦女神ヴィーリヤの民となります」
「吾が娘の危機と聞いた」
「おそらくは」
「そうか。だがまだ
「地上までお連れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「事を為したあと、またここに連れ帰ってくれるか?」
「お望みのままに」
「ふむ、吾が依代が、人と話せるままで地上に赴くのは初めてじゃ」
「幼子の姿の女神様など、伝説にさえ残っておりません」
「重畳重畳。――ところで、ヌシは大輪の虚栄の花を咲かせておるな」
「えっ、わたくし? ですか?」
ルメルカ様は私に視線を移してそう言われた。
「そうじゃ。ナホバレクの領土となりつつある。よく抑えておるな」
「わかるのですか?」
お兄さんが聞くと、ルメルカ様はお兄さんに視線を移す。
「この娘を眠らせてみよ」
「えっ!?」
「ルハカ、泉の方へ離れてみてくれ」
「本当にやるんですか?」
「そこで横になってみなさい」
お兄さんの言葉のまま横になると、お兄さんは私に魔法をかけた。
◇◇◇◇◇
「よくやったぞ、シグルズ」
声が聞こえた。私を揺り起こしたのはお兄さん。
目を覚ますと、目の前に青紫の白っぽく透けた花があった。
「え……これは。ひっ!」
花を持っていたのはミルゴサだった。
ミルゴサは自慢げに、そのリコリスに似た大輪の花を見せていた。
「シグルズを褒めてやれ。あとで構わん。ミルクの一杯を礼に与えよ」
「あっ、ありがとうございますシグルズ……さん……」
あっ――私がその花に触れると、ほろほろと崩れていった。
シグルズと呼ばれた小さなミルゴサはルメルカ様の元へと戻っていく。
ルメルカ様の周りには四体のミルゴサが居た。
他のミルゴサは止めを差されていた。――えっ、いいの……?。
「儚い領土じゃが、心のうちにある間は強固な領土じゃ。眠る間だけ無防備になる」
「これがナホバレクの領土……」
「判別する方法も教わった」
お兄さんがルメルカ様から教わった話を聞かせてもらった。
ちなみに私の胸元のお兄さんの宝石は……無くなっていた……少し寂しい。
虚栄の花は小さな小さな種から生じ、人の虚栄心を増大させ、魔力を元に人の魂に根を張り、妖精界に虚栄の花を咲かせる。強い自制心だけがこの花の成長を封じる。つまりは、私は我慢強いと思っていただけで、自制心など欠片もなかったということ。
妖精界に咲いた花は、
「人では妖精界に容易に手出しができない。そこでルメルカ様の眷属たる
そこからは帰還の準備をしながら話を続けてもらった。
虚栄の花の種、虚栄の種は神々の世界の植物で、本来は地上に在ってはならない物。かつて、幾度か自惚れナホバレクが地上に持ち出したが、いずれも少量だったという。しかし今回、ナホバレクは地母神様の
「つまりはその
「それ! その袋、見たことがあります!」
「なんだって!?」
「以前、ジルコワルが持っていたと話していた袋ですよ! まさかあんな小さな麻袋から全てのタニラが生じていたなんて思いもしなかったんです! 白い紐が美しく輝いて見えました。きっとそれが
しかもジルコワルはあれを高額で売りさばいていた。
ただバラまくだけで恐ろしい種なのに!
◇◇◇◇◇
我々は
「あ……の……、
「ふむ。長く外の世界を見ていないのでと土産を頼まれた」
「土産……で、ございますか。そもそも彼は何のためにここにいらっしゃるのでしょう?」
「あれは吾が修練のため、そこにおる」
この地下迷宮の構造のおかしな点はそれだった。
入口ほど強敵が居る? そうじゃない、あれは出口だった。
もっとずっと奥に地母神様の寝所があるのだろう。
修練を重ねて登ってくるのだ。
「そのためだけにずっとお一人で?」
「ああ。あれは吾が百万の民を滅ぼした罪を償うとてそこにおり続ける」
「ひゃ、百万でございますか……」
「あたしら、ずいぶんと手加減されてたんでやすね……」
その後、
「神殿は
そう言って私に視線を投げるルメルカ様。
「グズルーンはヌシに、ブリュンヒルドはヌシにつけてやろう」
そう言ってお兄さん、ゲインヴへと視線を移していくルメルカ様。
地上へ出るとあの神官がひとり、やってきた。
「なんじゃ、大きさの割には寂しい神殿じゃの」
ひと目でルメルカ様と理解した年老いた神官は、そのあまりに多くの衝撃に五体投地していました……。
ただ、ルメルカ様はどこか遠くに視線を移されておりました。
「そうか、愛しき娘は行ったのか……」
少しだけ寂しそうな表情を見せたルメルカ様は、そう、呟かれました。
--
Wizardry IVって逆ダンジョンがありましてね……。
関係ないですけど、ミーハーなネーミングが好きな地母神様でした。
スケリゴはブリンクドックだと思います。
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