第41話 地下の主 1
「
お兄さんは
「ルハカ、
煙幕の中、お兄さんが叫ぶが――。
ドッ――という音と共にお兄さんが弾き飛ばされ、煙の中に消える。
私は
幸いなことに部屋はやたら広く、おまけに明るかったためサイズ感は把握している。
壁際まで逃げ、壁を蹴るようにターンし、距離を取りながら次の詠唱を。
さすがゲインヴはお兄さんをカバーしている。
お兄さんの
数瞬、お兄さんから
炎の壁は消え去り、
再びゲインヴが大盾を構えて立ち塞がる。
ぶつけるように大盾を
ただ、何故か
一撃は鋭いが、
こうなるとゲインヴは粘り強かった。
薙ぎを葦のように柔らかく
私はひたすらに障壁を掛け続けていた。
魔術師の魔法は範囲が広い。接敵した敵の排除は容易ではない。
ギリギリを狙ってゲインヴに当たってしまえば元も子もないのだ。
エリン様のようにはいかない。
ただ、意外にも
お兄さんが何十回目かの
――おかしい。何かがおかしい。
「なんなのでしょう?」
お兄さんに聞いてみる。お兄さんも
「わからん……が、通してはくれるみたいだ」
格子扉に近づいても再び立ち上がってくる様子はない。
私たちは荷物を回収し、先へと進んだ。
◇◇◇◇◇
さらに地下へと続く階段の先は地下迷宮であった。
壁は比較的軟質の石で、迷宮自体がくりぬいて作られたもののように見える。
さらには壁にどこまでも棚のようなものが並ぶ。幅八尺、高さ一尺半くらいの横長の棚が上下に三段、あるいは四段。それがどこまでも並ぶ。
「まるで
「ひっ……」
お兄さんが怖いことを言う。怪物は怖くない。けれど人は怖かった。
遠征でも魔王軍に堕ちた領兵の軍隊はあまり相手にしたくなかった。
歩みを進めるが、幸いなことに埋葬された死体は見当たらない。
ズルリズルリ――何かを引き摺るような音と共に、通路の先から
皺だらけの顔は私たちの視界に入ると、大口を開けてカラカラと笑う。その口には汚らしい尖った牙が二重三重と並んでいた。体は獅子。四つ足のクセにゲインヴと同じくらい背が高い。
ビュン!――何かが空を切る音と共に
「
私は距離があるうちに
「わたくしたち、生肉ですよ!?」
「死んだらいずれ腐肉でやすがね」
ギャッ――と人間の顔の倍はあろうかという
「あれ? 効いてます」
「確かに効いているな」
ただ、
――
詠唱省略が得意ではない私には手がない。
せいぜい
ニヤリと人間のように笑う
むかぁ!――ときた怒りはしかし、一瞬で抑えられる。
ただ、
百面相のように皺だらけの顔をよじらせ、やがてドロドロと不快な何かを大口から吐き始めた。よろよろと体のバランスを崩し、壁にぶつかるとそのままズルリと横たわった。
お兄さんだ。
詠唱を省略された
お兄さん凄いです!――と叫びたいところだけど声にならない。
私は仕方なく――仕方ないよね?――後ろからギュッと抱きしめておいた。
お兄さんは
書き留めていた地図を確認する。迷宮……というほどでもない。通路が整然と平行に並ぶブロックがあり、そのブロックの外周のどこかにある横道を抜けると、通路の先にさらに別のブロックがあるだけ。その繰り返しを奥へ奥へと進んでいる。
再び進み始める。するとまた別の
今度は私が
可能な限り素早く近くに寄り、
先制さえ許さなければ容易な相手だった。別のブロックではさらに別の
「やはり神性の魔法が弱点だな。ここの怪物に共通する弱点なのか?」
◇◇◇◇◇
十といくつかのブロックを超えた先、ようやく地下への階段を見つけた。
狭い階段で、
「地下ってえのに意外と温かいでやすね」
「確かにそうだな」
「普通の地下迷宮ではありませんよね、明らかに」
地下迷宮というのは実在する。ただ、こんな桁外れに大規模なものは聞いたこともない。それに、多くは
「ま、あたしゃ、あしらいやすい相手で助かりやすがね」
「それ! それですよ!」
「何ですかい?」
「下に行くほど楽って変じゃありません?」
「――だって、怪物の棲み処にしても大物ほど手下に入り口を守らせて自分は安全な場所に居ますし、これだけ大きな場所でいちばん凶悪だったのって
「ルハカもそう感じたか?」
「いやあ実はあたしもそう思いやす」
「もう一層、降りて確かめればわかるかもな」
お兄さんの言葉の通り、次がさらに弱い怪物の棲み処なら……。
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長くなりましたので分けます。
オーガメイジの一発目は必殺技(笑)ですね。
変移抜刀霞切りの原点である薙刀での必殺の一撃だとおもいますたぶんきっと。
スヴェントリはマンティコアです。比較的原型に近い描写にしました。
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