第39話 ミルコラハス
――怪物は外までは追ってこられない――レハン公の言っていた意味が分かった。
長い下りの階段を進んだ先、そこには小さな部屋、正面にはさらに下る階段、その階段の傍の壁にはレバーがあった。階段は少し下りると枠付きの鉄格子が嵌っていた。ただ、その先は広い部屋になっていて、そこには巨大な怪物が居た。そして確かに魔王が産み堕とした化け物ではない。
白銀の体毛をもつ六足の狼、三ツ首の
お兄さんが
お兄さんは
「下がんなせ」
ゲインヴが私に言うがそうはいかない。
私は目一杯の
しばらく右へ左へと歩き様子を伺っていた
お兄さんから下がるよう指示が出る。
一旦引き返すと、お兄さんが
「ルハカ、顔を見せろ。火傷は大丈夫か?」
お兄さんが私の兜の
冷たくて気持ちいい……。
「はい、このくらいなら平気ですよ。
本当は結構痛かったのだけれど、前の遠征での戦闘に比べたら大したことは無い。
「あの怪物はおかしなことに神性による魔法への耐性がほとんど無い」
「えっ、ではミルーシャ様がいらっしゃれば……」
「いや、今からミルーシャを呼び戻すわけにもいくまい」
「ではどうすれば……」
「魔術にもあるんだ。神性を扱える分野が」
「
「俺はひとつだけ
「でも、そんな付け刃の魔法でなんとかなるのでしょうか?」
「付け刃じゃないさ。幼い頃から使い続けてきた魔法だ」
「他に手は無いのですか?」
「無いな。
「……なぜそんな怪物がこんな場所に」
「神の寝所へ容易に近寄らせないためか、或いは……」
お兄さんは考え込むように口を濁した。
◇◇◇◇◇
私たちは
まず、一度神殿に戻り、残った神官から
「ひぇえ、こりゃ半端ねえ」
部屋の中へと躍り出たゲインヴに即、
ゲインヴは大盾を両手で支え、続けざまに来る攻撃を受け止めるのではなく辛うじて
私はひたすら障壁の魔法をかけ続けるのみ。
ただ、これで勝てるの?――という思いはあった。私たちの魔法も通らない、ゲインヴの剣でも貫けない、そんな相手をどうやって倒すの?
ゲインヴは一撃一撃を盾で以ってその力を逸らせ、爪で引っ掛けられると無理に抵抗せずごろりと転がって再び立ち上がる。凪払いに対しては盾を地面に立て、斜めに伏せて耐えた。あの体躯でこの男は身体を柔軟にしならせ、体全体で衝撃を和らげていた。正直、失礼とは思ったけれど気持ち悪いほどに攻撃を往なす。強風に翻弄される葦のよう。ともすれば笑ってしまうその身のこなしは、だけど、頼もしくさえ在った。
永遠に続くかのような猛攻をゲインヴが耐え続けていると、やがて三ツ首のひとつが舌をだらりと垂らし、白目をむいているのに気が付く。再び炎を吐こうと構えるが、先程からその動きは全てお兄さんの
さらにはもうひとつの首が泡を吹いて項垂れると、どうしたことか
今や恐ろしい神代の怪物、
お兄さんと私は顔を見合わせた。
「やりました! さすがはお兄さんです!」
「ああ。だが、これはゲインヴが耐え忍んでくれたおかげだ」
ゲインヴを見ると、ボロボロになった大盾を投げ出すように大の字になって寝転んでいた。
「少しは自分を褒めてあげてください!」
私はお兄さんのお腹にパンチを入れておいた。
◇◇◇◇◇
その後、神官を部屋に招き入れようとしたところ
「何でしょう、何か不自然ですよね、この地下遺跡は」
「そうだな……」
小部屋からはさらに階段が続く。そこからの階段が緩やかに曲がっていた。
地下へ地下へと続く階段。ただ、その階段は意外と広く、圧迫感は無い。黄泉へと続く階段というよりは、神殿のごとき白亜の壁が続き、松明や魔法の照明を明るく反射している。
やがて現れた小部屋。構造も同じ。
ただ、その先の大部屋の中は明るかった。魔法の灯りも要らないほど。
大部屋の中央には人がいた。胡坐をかいて座っている人。ただし大きい。
赤い肌の巨人が座っていた。
葦か何かで編んだ敷物の上に座る、立ち上がればおそらく身の丈十二尺はあろうかという赤い肌の巨人は二本の角を額から生やし、口から零れ出るほどの鋭く長い牙、ごわごわとした髪に太い眉、ぎょろりとした眼はこちらを見据えていた。
その巨人は
私とお兄さんはすぐに
「北の果てに棲むと言う
「――ただ、おかしい。
「またですか……」
ミルーシャ様さえ居てくだされば……。
無い物ねだりをしても仕方がない。準備を整えた私たちは、
すぐさま襲い掛かってくるかと思った巨人は、
「調子狂いやすね……」
ゲインヴが呟くも束の間、
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ミルコラハスはおそらくケルベロスみたいなものだと思います。
そしてオーガメイジ!
エキゾチッククリーチャーの代表格みたいなやつですね。ルハカ視点ではよくわからないかもしれませんが、これをD&Dで最初に扱った人、センス良すぎますね。
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