9話 戻って来たチケット

 こうしてチケットは無事、里奈りなのもとへと戻って来た。


 あかりの言うとおり、『天体の謎』にはさまれて返却されたチケットは、ちょうど返却受付の職員がチェックしているところだった。


 小嶋こじまが幾分の創作を交えた理由を話すと、あっさりとチケットを返してくれた。小嶋の貸出カードから昨日返却した本人だと確認が取れたからだ。


 返されたチケットを受取り、一瞬間を置いた小嶋だったが、ぶっきらぼうにそれを里奈に返す。震える手でそれを受け取る里奈。これで明日のライブには間に合うだろう。


 小嶋は里奈が当選したことを、教室での二人の会話を盗み聞きして知った。そして里奈が発券した直後を狙ったのだろう。


 これで一件落着か。

 そんな二人の様子を見ていたあかりが小嶋に向かって言う。


「ねえ小嶋、里奈にちゃんと謝って」

「あぁ~?」

「当然だよね!」

「もういいよ、あかり・・・」

「ダメだよ里奈」そう言うと再び小嶋の方を向く。

「ちゃんと謝ってよ小嶋。それが礼儀だよ」


 珍しく強い口調のあかりにひるむ小嶋。

 すると次の瞬間!


「フンッ!!」


 急に向きを変えると、入り口目掛けて駆け出す小嶋。


 あっ! 逃げた!


 でもどんなに逃げても駆けっこならあかりには勝てないぞ! それにそもそもどこに逃げるつもりなんだ? 明日には学校で会うのに!


 そんな事を考える余裕すらないのか、玄関を飛び出して行く小嶋。当然のごとく見事なスタートダッシュを決めると、それを追いかけるあかり。


「待てーーー!」


 玄関から黄色く色づいた落ち葉が一枚舞い込んで来る。


 こうやってあかり『かく』の追いかけっこは今日も続くのであった。




(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

体育会系JK 観音寺あかりは秋に走る 北川聖夜 @seiyakita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ