8話 解決

 翌火曜日、この日は文化の日で祝日だった。


「朝九時に図書館前に集合ね」と言うあかりの言葉を受け、俺は誰よりも早く図書館前に着いた。でもなんで図書館なんだ?


 昨日はこの通称『官庁通かんちょうどおり』はそのほとんどが休館だった。


 この図書館もその隣の体育館もご多分にれず休館、唯一開いていたのは公民館だけ。こんな通りになんの用があるのだろうか。


 すると県道の角を曲がってあかりと里奈りながやって来た。スマホの時刻はジャスト九時! 図書館が開く時間だ。


「おはよう一郎」

「ああ、おはよ。ココで良かったのか?」

「うん、そうだよ」


 今日もニコニコと笑顔がまぶしいあかり。隣の里奈も昨日とは打って変わって明るい表情、でもどこか少し緊張しているようだ。


「早速だけどあかり、チケットの行方ゆくえわかったのか?」

「うん、多分だけど合っていると思うんだ」

「で・・・どこなんだよ?」


 キョロキョロと辺りを見渡す俺。開館したばかりの図書館に学生やお年寄りが入って行く。


「違うよ、ここに落ちているワケじゃないよ」

「あ、そうなのか? じゃあ、どこにあるんだよ?」

「そう焦んないでよ一郎。もうすぐ来るはずだから」

「来る? 来るってチケットが歩いて来る、とでも言うのかよ」

「うん・・・あっ!」


 そうあかりが見上げた前方、県道を曲がってこっちに歩いて来る男子、小嶋こじまだ!


「小嶋!?」

「あっ!」


 俺たちの顔を見て一瞬、逃げ出す構えの小嶋。


「待って小嶋!」


 あかりのひと言に、一歩踏み出した右足を止める彼。追い駆けっこになっても、決してあかりからは逃げ切れないと昨日の件で学んだのだろう、反対側を向いたまま立ちすくむ彼。それに近寄るあかり。俺と里奈も首を傾げながら二人に近付く。


「ねえ小嶋、白状して! そして里奈に謝って!」

「・・・・。」


 なおも背中を向けたまま無言で立ち尽くす小嶋。


―――ど、どう言う事だ? やっぱ犯人は小嶋・・・?


 するとあかりは振り返り、そんな俺の方を見て話す。


「昨日、一郎が私に寄越よこしたゴミくずあったでしょ?」

「ん? あ、ああ渡したな」

「あの中にね、レシートがあったんだ」

「レシート? そう言えば・・・」俺は渡したゴミの中に何枚かのレシートのようなモノがあったのを思い出す。

「その中にね、この図書館の貸出シートがあったの」

「はあ・・・。それで?」


 本を借りたときに挟まってくる返却日などが印字された小さなレシート、それのことを言っているのだろう。


「うん、そのレシート、本のタイトルは『天体の謎』、返却日は一昨日の日付になってた」


―――ん? 天体? 天体オタクで有名な小嶋が借りた本ってこと? でも仮にそうだとして、それとライブチケットがどう結びつくんだ?


 すると今度は再び小嶋の方を振り返ってあかりが言う。


「小嶋、昨日この『天体の謎』って本、返却ポストに返却しなかった?」


―――返却ポスト? ああ、図書館が休みの日でも返却できるように、玄関前に設置してあるあのポストのことか。


 そこまで言ったとき、今まで沈黙を続けていた里奈が急に大きな声を出す。


「あっ! まさかその本に挟んで・・・!!」


 そう叫ぶやいなや、今にも小嶋につかみかかろうとする里奈、それを小柄なカラダで抑えるあかり。


 そっか、その返却本にチケットをはさんでポストに投げ込む。休日の図書館に投げ込まれた本は翌朝までポストの中で眠ったままだ。それを翌営業日である今日、取りに来る。『大事なモノを挟んだまま返却してしまったので返して欲しい』と!!


 相変わらず県道の方を向いたままの小嶋。

 掴みかかろうとしていた里奈も、今は少し力を抜いている。あかりの制止が効いたようだ。


「一郎!」


 あかりが俺に目配せしてくる。


―――オ、オレ? でもまあここは俺が決めるしかないな・・・。


 俺はゆっくりと小嶋の脇に立つと少しトーンを落とし、務めて冷静な声で言う。


「どうなんだ、小嶋。今なら間に合うぞ」

「・・・・。間に合うだと?」

「ああ、そうだ。里奈の許しを請うのも、ライブの時間にもな」

「ちっ!」


 そう言うと小嶋は諦めたかのようにこちらを向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る