7話 ひらめき

 思わず間抜けな声がれる。そっか、確か休日配送とかなくなったんだっけ? しかし気を抜いてはいけない。俺は咳払いをひとつかますと心の態勢を立て直して言う。


「そ、そうだな、配達はしないよな。でもさ、集荷自体はするはずだ。だってココにも書いてあるくらいだし」


 そう言ってさっきの『取集予定』の休日の欄を指さす。しかしそんな俺に構わずあかりは話を続ける。


「それにさ、昨年あたりから平日でも翌日には届かなくなった気がする」

「え、あ、そうだっけな。そうだったかもしれないな・・・」


 俺は少し下がってしまっている自分のトーンに気づく。いやいや、ここで弱気になってはいけない。何事も強気に攻めるのが定石だ。


「で、でもさ、結局はヤツにとってはなんの問題もないだろ。一日くらい着くのが遅れたって確実にヤツの手元には届く。日本の郵便は安心安全、優秀だからな。ははは・・・」


 必死に取りつくろう俺。そんな俺に容赦ないあかりの無情なひと言。


「でもそれじゃあライブに間に合わないよね」

「えっ・・? ・・・なんで?」

「だってさ、下り坂のライブは明後日でしょ? 届くのは早くても明明後日(しあさって)だよ」

「うっ! ・・・・」


 ひゅ~う~・・・


 俺の前を気の早い北風が吹き抜けて行く。

 もしかして勇み足だった??

 そんな俺に構うことなく、あかりの明るい声が響く。


「ねえ、他も考えてみようよ!」

「あ、ああ・・・そうだな。郵便だと間に合わないかもだしな・・・」


 俺は引きつった頬をあかりに見せまいとヨコを向きながら答えるのだった。


***


 横断歩道を渡るとコンビニの前でうずくまっていた里奈りなが俺たちに気付く。ライトに照らされたその表情を見るに、やはりチケットはここにも落ちていなかったらしい。


「やっぱり見つからないの?」

「うん・・・どこにもない・・・」


 あかりの問いかけに弱々しく答える里奈。涙ぐんだその目は真っ赤に充血している。


「そっか、やっぱないか・・・」


 掛けるべき言葉も見つからない俺はコンビニの入り口に目をやる。ちょうど例の店長がゴミ袋を抱えて出て来るところだ。


「あ、店長、スミマセンでした!」


 慌ててあかりがゴミ袋を受け取ろうと手を伸ばす。しかし店長は「いいからいいから」とその手を引っ込める素振り。

「大変なことになったね。警察に届けるかい?」そう言いながらゴミ袋を片付けに、建物ウラへと消えて行く。

「ごめん里奈。私も仕事に戻らないと」

「あ、うん、そうだよね・・・。ありがとうあかり・・・」


 里奈はそう力なく頷くと俺に向かって言う。


「一郎もありがと・・・」

「あ、お、おう・・・」


 なんとかしてやりたい。里奈が小嶋とぶつかった場所は、店頭の防犯カメラからも外れている。やっぱ店長から警察を呼んでもらおうか? そう思いながら俺は、握ったままだったゴミを捨てるため店内に入る。結局、参考になるようなモノは落ちていなかったな。あ、あれ?


 店内入ってすぐ左手にあるゴミ箱。その扉は開いたままで、ビニール袋がセットされていない状態だ。そういやゴミ捨ての途中だったな。


「あ、それ私が捨てておくよ」


 そんな俺に気が付いたあかりが手を差し出してくる。


「ああ、悪いな。結局ただのゴミしか見つからなかったな」


 俺は今となってはただのゴミをあかりに手渡す。そしてまだ隣で落ち込んでいる里奈に言う。


「なあ里奈、やっぱ店長の言うように警察に届けようぜ」

「う、うん・・・でも、いいよ・・・。もう諦めるし・・・」


 今にも消え入りそうな里奈の小さな声。その目には先ほどから涙が浮かんでいる。


 と、その時、俺から渡されたゴミをいじっていたあかりが急に大きな声を出す。


「ねえ一郎! わたし、わかっちゃったかも!!」

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