5話 チケット探し

 俺はあかりと二人、今しがた駆けてきた道をコンビニ方向へ戻る。


 小嶋こじまはチケットを持っていなかった。バッグにも服の中にも。これは確かだ。折りたたんで靴の中に隠していた? 確かに靴の中を見落としたのは失策だったが、あの限られた時間であかりに追いかけられながら靴を脱ぎ、チケットを折りたたんでまた靴を履く・・・ムリだろ!?


 俺はいつの間にか自分が推理を始めていたことに気付く。彼が持っていないならどこかに隠したってことはないだろうか? それをあかりと探して見ようか? そうだ、確か以前あかりは、学園で起こった事件を二年の凛花りんか先輩たちと一緒に解決したと聞いた。そうだ、それだ! 


 俺は隣を歩くあかりに提案してみる。

「なああかり、これってもしかして小嶋がどこかに隠したんじゃないかな?」

「・・・・隠した?」

「うん、ここまで来る道中のどこかで」


 するとその足を止めたあかりがこっちを見上げて言う。


「そうだね、それ、私たちで探してみようよ!」


***


 こうして俺とあかりの『チケット探し』は始まった。

 まずは道路沿いだ。スマホライトの力も借り、薄暗くなった小径こみちに何か落ちているモノはないかと、あかりはひときわ目を大きくしてキョロキョロと探している。


 俺も負けずと一緒に探す。しかし落ちているのは紙切れやタバコの吸い殻、それに空き缶・・・。まあ、取りあえず拾えそうなモノは拾っておこう。


 しかし俺には一箇所だけ気になっている場所がある。そう、ヤツが一旦逃げ込んだあの公園、空き地との境があいまいな通称『空き地公園』だ。そのどこかに隠したと言うことはないだろうか?

 大通りに出るとなおも道ばたを探しているあかりに言う。


「なあ、あかり。俺、あの公園があやしいと思うんだ」

「公園? そっか、小嶋、いったん公園に入ったもんね」

「だろ? 俺の推理だと公園の中にあると思うんだ」

「なるほど! 行ってみよう!」


 駆け出すあかりに遅れること数秒、俺も公園に入る。


「このどこかに隠したのかもね」

「ああ、俺は中でも・・・そう、アノ土管の中がアヤシイと思うんだ」


 公園にある土管・・・よくドラ○もんで、ジャイ○ンがリサイタルをやるアレ・・・本当の名前はヒューム缶と言うらしいが・・・それが公園の隅に三本重ねられている。

 俺はそのリサイタルの舞台・・・ではない、土管の中を覗き込む。


「あ、あれぇ・・・?」


 あかりも他の管を覗き込む。


「こっちにはないね」


 ライトをかざしながらカラダを半分その中に入れて探してみるが、そのどれにもそれらしきモノは見つからない。


「おっかしいなあ」

「じゃあ、他の遊具も探してみようよ!」


 そう言うとあかりは一番奥にあるブランコの方へ駈けて行く。


―――うう~ん、ブランコやジャングルジムじゃあ、隠せそうなトコはないしなあ・・・。


 でも俺は諦めない! ここでチケットを見付ければきっとあかりは俺を見直してくれる! ・・・はず!?

 するとあかりは「一郎、トイレも見て見ようよ」と今度は女子トイレの中に駆け込んで行く。となれば俺は男子トイレ担当だな。


 約五分後、出て来た二人は互いに顔を見合わせる。

「ないな」

「ないね」

 トイレの各個室、水洗タンクの中まで探したが、チケットは見つからなかった。


―――うう~ん、この公園にないとなると・・・。


 俺たちは仕方なく公園を出ると、とぼとぼとコンビニ方面へ戻り始める。


***


 県道の信号はまた赤だ。気持ちはあせるがこうしてあかりと二人で並んでいられるなら、信号待ちも楽しいくらいだ。そんな不埒なことを考える俺の視界に、一本の郵便ポストが入って来る。


―――イマドキ、こんな筒状の赤ポストなんてレアだよな・・・ん? ポスト??


 その時、俺の頭の中でいくつかのピースがカチッ! 音を立ててまる音がした。


―――そう! それだ!!!


「あかり! わかったぜ、チケットの行方ゆくえが!」


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