4話 チケットの行方


 月曜日でも唯一開いていた公民館からは、近所のお年寄りたちが、まったりとした会話をしながらぞろぞろと出て来る。何かの寄り合いでもあったのだろうか。


 そんな中、小嶋こじまの身辺調査が始まった。手にしているのはクリーム色のトートバッグのみ。小嶋はその中身を近くのベンチにぶちまける。


「ほら、探してみろよ!」


 その言葉を待つことなく公民館前の街灯が照らし始めた中、里奈が必死に探し出す。


「一郎、お前は俺のカラダでもチェックするか?」


 そう言って俺に挑発的な目を向ける。


「あ、ああ、一応な・・・」


 あまりにも自信満々な彼の態度に、俺は少しビビリ気味にカラダを触る。胸のポケット、ズボンのポケット、ポケットに入っていた財布の中、果てはハンカチを広げてその中まで確認する。


「ない・・・ないよ・・・」


 うしろでバッグの中身を確認していた里奈りなの弱々しい声が聞こえる。バッグには入っていなかったようだ。そして、ヤツの服の中にも・・・。


「オイ、どうだよ! あったのかよ、そのチケットとやらはよ!」


 勝ち誇ったように小嶋が言ってくる。

 なぜ? 里奈の勘違い? しかし、彼は里奈とぶつかって逃げた。それは間違いのない事実だ。すると今まで口を閉じていたあかりが言う。


「ごめん小嶋。私たちの勘違いだったのかも」

「勘違い? オイ! それで済ますつもりかよ!」


 今度はあかりにすごむ小嶋。しかしそんな小嶋にもくりっとした黒目がちな目を向け、ハッキリとした口調で彼女は返す。


「でもさ、小嶋。じゃあ、なんで逃げたの?」


 彼女の態度はいつもアサーティブだ。相手に対しても自分に対しても、決してかたよった感情を持たない。常に公正で中立、それがあかりだ。


 あかりの素直な大きな目で見つめられた小嶋は、少しその勢いを落として言った。


「だってよ、お前らが追いかけて来るから・・・って言うか、里奈にぶつかってコケさせたから怒られるかと思ってよ」

「ない・・・ない・・・私のチケット・・・」


 すぐ脇では里奈がうわごとのように呟きながら、何度も小嶋のバッグの中身をほじくり返している。


「まあ、あれだよ、そのチケットとやらがないなら、コンビニの近くにでも落ちてんじゃねえの?」

 そう言うと「もういいだろ」と言わんばかりに広げた中身をバッグに仕舞う。

「そう・・・そう、もしかしてコンビニの近くに・・・」

 そう呟くと、俺たちを置いて今来た道を駆け戻る里奈。


「ちっ! なんだよ、因縁付けるだけ付けてじゃあさよならかよ」

 あきれながらバッグを肩に掛けると小嶋が言う。


「まあ、今日のとことは許してやっけど・・・コレは貸しだからな! いいなあかり!」


 そう言い残すと、県道の方へ向き直り帰って行く。なんであかりにだけ『貸し』なんだよ。

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