私が大聖女♂様のお世話係!? ~虐げられていた下級聖女のはずなのに、何故か溺愛されています~

無月弟(無月蒼)

第1章 大聖女とお世話係

第1話 虐げられ聖女と大聖女

 教会前の広場は、溢れんばかりの人でごったがえしている。

 右を見ても左を見ても、目に映るのは人、人、人。

 大きな街だというのは知っていたけど、それでもこれほどたくさんの人が一度に集まっているのが信じられない。


 すると教会の建物の上、テラスに誰かが出てくる。白いお髭を蓄え、顔にシワを刻んだ高齢の男性、教皇様だ。

 そして教皇様は、集まった人達に向かって宣言する。


「一同静粛に。本日は大変喜ばしいお知らせがある。私達が長年探し求めていた御方を、ついに教会に迎えることができた。数百年に一度現れる奇跡の人──大聖女様である!」


 教皇様の言葉で集まっていた民衆から歓声が上がって、私も広場の片隅で、期待にドキドキと胸を高鳴らせる。


(だ、大聖女様って、どんな方なんだろう? きっと私みたいな2級聖女とは比べ物にならない、立派な方なんだろうなあ)


 私の名前はマルティア・ブール。

 修道服に身を包み、頭にベールをかぶった姿からも分かるように教会の人間……と言うか、私も一応聖女なの。

 まあ聖女と言っても、私は力が弱い、下っぱ聖女なんだけどね。


 教会には数多くの聖女が所属していて、そんな私達は広場の隅に固まりながら、教皇様の発表を聞いていた。


「ああ、大聖女様はどんな方なのかしら」

「きっとお美しい方なのでしょうねえ」

 集まった聖女達は、大聖女様の登場を今か今かと楽しみにしている。

 だけどその時、不意に一陣の風がブワッと吹いて、私の被っていたベールを吹き飛ばした。


「あっ」


 いけない。

 ベールが外れて、隠れていた私の髪が露になる。すると隣にいた子が、冷たい声を出す。


「うわっ。せっかくのおめでたい日に、そんな気味の悪いものを見せないでちょうだい」

「は、はい。すみません……」


 私は謝りながら落ちたベールを拾う。

 すみません。私のせいで、不快な気持ちにさせてしまいました。


 私の髪は、雪のように真っ白。

 そしてその白い髪は皆から気味悪がられ、けむたかられているのですよね。

 それというのも、この国では白い髪というのは、縁起が悪いとされているから。


 悲しさと悔しさでうつむきながら、ギュッとベールを握りしめたけど……その時、集まっていた民衆から歓声が上がった。


「ああ、あれが大聖女様よ!」

「なんてお美しい!」


 え、大聖女様が出てこられたの!?

 ベールを被るのも忘れて顔を上げると教皇様の横に、純白のドレスを着た女性が立っている。

 あれが、大聖女様!?


 ハッキリとした美しい目鼻立ち、遠目からでも分かる長身で、スタイルの良い美人さん……ううん、絶世の美女と言った方がしっくりくるかも。

 美麗な黄金色の髪をキュッと引き締まった腰まで伸ばしていて、その表情は凛としていて気品に溢れている。

 な、なんて神々しいのでしょう。さすが大聖女様!


 すると彼女は、張りのある声で宣言する。


「ご紹介にあずかりました、大聖女ミシェルと申します。本日より私は正式に教会入りし、誠心誠意身を尽くしていく所存です。どうかよろしくお願いします」


 挨拶をする大聖女ミシェル様。

 その声は意外とハスキーだったけど、耳心地が良くて聞き惚れちゃう。

 すると隣にいた教皇様が、彼女の左手を取って、その手の甲を皆に見せるように上げてくる。


「これをご覧あれ。大聖女の証、七色の華紋である!」


 教皇様がそれを見せると、たちまち拍手と歓声が上がる。

 ミシェル様の手の甲に刻まれていたのは、まるでステンドグラスのように色とりどりの、華の形をした紋章。

 確かにあれは伝承にある、大聖女様の証だ。


「七色の華紋よ!」

「本当に大聖女様なんだわ。ミシェル様ばんざーい!」


 集まった人達は大聖女様ミシェル様と、大盛り上がり。ミシェル様は手を振ってそれに応えていたのだけど。

 ミシェル様がこちらに目を向けた時、一瞬その動きが止まった気がした。


 するとミシェル様はニッコリと、まるで女神のような笑顔を作られたの!


「キャー、大聖女様が私に笑いかけてくださったわー!」

「なに言ってるの。ミシェル様は、わたくしに微笑んでくれたのよ!」


 騒ぎ出す同僚の聖女達。

 けど聖女様は別に、個人に対して笑いかけたわけじゃないと思うんだけどな~。


 でも皆がはしゃぎたくなる気持ちも分かる。だって今の聖女様の笑顔、とても素敵だったんだもの。

 いつも白い髪を気味悪がられている私とは大違い……は、いけない。


 ここで私はようやくベールを外したままになっていることに気づいて、慌ててかぶり直す。

 もしも大聖女様に見られでもしたら、とんだお目汚しになってしまうものね。


 ああ、それにしても大聖女様、本当にお美しい。

 今日から教会入りするって言ってたけど、あんな人が近くにいるって思うと、緊張しちゃうなあ。

 まあ私なんかじゃ、言葉を交わすことすらないか。


 ……って、この時は思っていたんだけど。この時私は、まだ気づいていなかった。

 大聖女ミシェル様が来られたことで、私の世界が大きく変わっていくことを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る