第54話
勇者の行動は内通者の盗賊からの報告で大まかではあるが把握済みであることが判明した。ベルクートに不法侵入した際、見逃してやるかわりに協力しろと3人に詰められたのだ。その気持ち、わかる。とっても怖かったろうに。
「あなたがモンスターの位置を知らせてくれたおかげで、だいぶ楽に掃除できました」
サティアンは尊大な態度で盗賊に一応の礼を言った。ただまったく感謝の念は感じられない、平たい声だ。
「それで、持ってきてくれましたか?」
盗賊は腰から剣を差し出した。あれはラミアスの剣だ。勇者がこれ見よがしに腰からぶら下げていた剣。
すらりと盗賊が剣を抜く。刃が美しい。俺は緊張した。サティアンと一戦交える気か?
盗賊は足元の線路に向かって剣を振り下ろすと、キィンと短い音を立てて線路を切断した。俺が見ても盗賊の剣のレベルはそう高くない。ただ振り下ろしただけ。それでもみごとに線路の切断面はギラギラと光っている。そして鞘をサティアンのほうに投げ捨てた。
「おい!待てよ!」
俺は止めに入る。
4人は全員俺に注目している。
「これって死亡フラグだよな?鞘を捨てたってことはもう決着はついてますよ」
岬は徳三と、サティアンと盗賊は俺に顔を向ける。
「サティアンさん、別に盗賊を切り捨てなくてもいいじゃないですか、これから協力しあってー--」
「何を言っとるのだよ、ピィちゃん!」徳三は俺を怒鳴る。
サティアンは盗賊が投げ捨てた鞘を拾い上げると、死体の握っている剣の刃に納めた。そして剣から死体の手を引きはがすと、手を合わせて祈りのポーズをとった。
そして立ち上がると、盗賊のほうに向きなおった。
「足元の線路、全部持って行ってください」
「はい、ありがとうございます」
盗賊はペコリと頭を下げ、壁際にひっくり返してあったトロッコを線路にセットした。そしてラミアスの剣で線路を1メートル間隔くらいで切断しはじめた。ふん!と切断した線路をトロッコに放り込む。
「あのこれはどういうことですか?」
俺はたまらず声を上げた。
「いいからお前も手伝ってやれ」
岬があごでトロッコのほうを指す。
「え、何を?」
「切った線路をトロッコに入れてやるんだよ」
俺は言われるがまま、盗賊が切断した線路を担ぎ上げてトロッコに放り込む。
きれいにトロッコの底に並べてやると、鉄の延べ棒が敷き詰められているようだった。
ん?待てよそうか、なるほど、この線路そのものが金になるということか。トンネルの長さはどれくらいになるのか知らないが、隣国に抜けられるほどの長さなら、相当量の埋蔵量であろう。全部、回収できればひと財産だな。
「なあ、君」
盗賊が話しかけてきた。二人とも汗だくになりながら作業の手は止めない。
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