第52話 俺たちの民主主義

 俺たち4人は無限沸きトンネルの入り口前まで来ていた。足元にトロッコの線路が伸びてきて日に照らされて眩しく光っている。


「まあ、満場一致で決まって良かったですね」


サティアンはぬけぬけといった。よく言うぜ、言わせなかったくせに。


「酒が欲しい」モンスターを倒し、稼いだお金で飲む酒は格別である。無限沸きトンネルに1票。


「新しい世界が見たい」モンスターを倒し、稼いだお金を旅行積立金にする。無限沸きトンネルに1票。


「最大手メーカーの現場が見たい」モンスターを倒し、稼いだお金で株主総会に出席するため株を購入する。無限沸きトンネルに1票。


「さあみなさん、中に入りますよ」


ランタンを持ったサティアンが先頭をいく。俺は松明を頭より高く上げ、最後尾でみんなを照らしながら、進んでいく。トンネルの中は結構広い。シャベルや一輪車がほったらかしになっていた。もうずいぶん長い間、人の出入りがないようだ。ジメジメした空気に満ちており、腐敗した死体が横たわっていたとしても不思議ではない不気味さを兼ね備えている。他の三人もこの雰囲気には流石に飲まれているのか、黙ったままあたりを警戒している。慎重にならざる得ない。虎穴に入らずんば虎子を得ず。ふいにことわざが頭の中をよぎった。


サティアンが手で止まれと合図を出した。岬と徳三はピタリと動きを止めた。ランタンの明かりを消すと、サティアンは左へと曲がっていき、姿が見えなくなった。20秒ほどたったころだろうか、ランタンの明かりが差した。サティアンが戻ってきて前進せよとの合図を送ってきた。抜身のレイピアを右手に持ったままだ。


サティアンの進んだ方向にいくと思わず声を上げそうになった。モンスターが2匹、絶命している。まるで置物みたいに微動だにせず立ったままだ。今にも動き出しそうである。もう一匹は対照的で頭と左足がなく、壁にもたれかかっている。床にできた血の水たまりに浸っていた。


徳三はモンスターの亡骸から何かをとりあげ、岬に手渡した。岬は受け取った何かを麻袋に入れた。こんな調子で少しずつ前進していく、もう40体ほどモンスターを狩り倒しただろうか。この間、我々は全く口を開いていない。口を閉じていても仕事を完遂させることができるのはプロであるなと思った。俺は三人の邪魔にならないようにひたすら松明の明かりで彼らのサポートに徹した。モンスターの亡骸を見るたびに吐き気がこみ上げてくるが、気合で何とかこらえた。


ああ、これしばらく肉が食えなくなるな。


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