第39話 利用されている人を利用する利用される人。

何が無学な者、だ。むかつくやつだ。


「私はこの汚職、格差、貧困、問題にまみれた王国にて少しでも救われる人を増やそうと頑張っているのだ のぶれすおびゅゆーじゅ といって、それは素晴らしいものなのだ」


真剣な表情に切々に訴えてきた


「のびゅれずおびゅるーじゅ、とはなんだ?」


「あ?ええっと・・・つまり富の再分配だ たくさん持っている人から少ししかもっていない人に分け与えて、みんなが平等になるように、だから地ならし屋」


「地ならし屋・・・?」


(駄目だ、何言っているのかさっぱりわからん)


「つまり、お前は地面の中で音を出して、人々を楽にする仕事をしているのか?」


「はあ?」


「地面から出てくる音は、人々を癒す効果がある。そういう魔術を発動するのだな」


「んん?」


「それならなぜ、この人から金品を強奪するのだ?」


逆さづりはニヤリと笑う


「まずは下ろしてくれ、そしたらすべて説明してやろう」


「それだけでは足りん、癒しの魔術を俺にかけてくれ」


「ようし、わかった良いだろう」


俺ははみちん男を階段に座らせ、逆さずりの引っかかったベルトを外しにかかる


「ゆ、ゆっくりと外してくれ・・・」


逆さずりが不安そうな声をあげる。ベルトの穴に刺さった留め具をちょっと引っ張ると、ベルトがスポンと外れた。とそう思った瞬間、逆さ刷りはズボンを残して真っ逆さまに地面に落ちた。思わず顔を覆った。そのおかげで墜落の瞬間は見ないですんだ。


しかし、ズシャッ!という音はハッキリと聞こえた。


どうやら逆さずりは、まだかなり所持品があったようで、下半身が地面に少しめり込んでいる。そしてピクリとも動かない。周囲には宝石やら巾着袋(金の糸で織った王国マーク付き)が散らばっている。


「おい・・・大丈夫か・・・?」


俺は恐る恐る声をかける


「金・・・私の財産・・・わぁーっ」


後ろからはみちん男が声を上げた。そして大慌てで散らばった金品を拾い集める。


「こっ!こっ!こっ!」


(こいつニワトリか?)


「これは私のだっ・・・誰にも渡さねぇ・・・」


「はーっはーっ」


荒い息を吐きながら、拾い集めた金品を一つ一つ確認している。


「くっそ、純銀の懐中時計、ほんのわずかに傷がついてる」


呼吸の荒い中、口からそんな言葉が時折漏れてくる。そんな様子を俺がじっと観察していると、目が合った。


「落ち着いたかい」


声をかけてみる。


「ああ、ありがとう。君のおかげで大損害、いや助かったよ」


とニヒルな笑みを浮かべた。必死で格好良く言ったつもりなのだろうが可哀そうに、パンツがずり下がり、はみちんからフリチンに進化したことに気が付いていない。


「ではお礼に、地ならしの術をかけてあげよう」


「何、あんたも使えるのか?」


フリチンのままニヒルな表情を浮かべ、人差し指を立てると、俺の顔の前にもってくる。


「この指の先端をジッと見て、リラックスして、深呼吸して」


俺は言われたとおりにする。指先のつめは丁寧に磨かれており、指も手入れがしっかりとなされている。


ムダ毛が一切ない。


きめの細かい白い肌が月夜に照らされ一瞬輝いているかのように見えた。家事や労働など一切したことが無いであろう、まさに金持ちの手だなと思った。


「ではこの指先から目を離さないで」


左、右、そしてぐるりと大きく円を描く。俺は指先を目で追ううちに、すこしめまいがした。


「それでは目を閉じて、後ろに向き直って」


眼を閉じたまま、ぐるりと後ろを向く。


「目を閉じたまま、ゆっくり歩いて、ちょうど50歩に達した時に目を開けるんだ」


「このまま歩けというのか?」


「そうだ、50歩目に術がかかる、だけど、一歩でも間違えた場合かからないからゆっくり慎重に歩くことをお勧めするよ」


ふむ、そういうもんなのか。俺はゆっくりと右足を前にだす。1歩、2歩、3歩と心の中で数えながら歩きだした。眼を閉じたまま歩くのは、スイカ割の時以来だ。


「い・・・いいですよーその調子、その調子、ニヒ」


フリチンからの声援を背中に浴びながらさらに歩を進める。7歩、8歩、9歩、と足を進める。


「・・・っぷ!あははは!」


何がそんなにおかしいのか、俺は少し不審に思いながらも、10歩、11歩、12歩と歩き続ける。次で13歩めだ。


「うわっ!何をする!?」


「うぉーまだ愛想づかしはすんでねぇ!払うもんは払ってもらう!」


なんだか後ろで喧嘩をしているような声が聞こえてきた。俺は片足を上げたままその場で固まってしまった。これはきっと・・・試練だ!


何があっても前に進む、きっとフリチンは俺のことを試しているのだ。よし、13歩目を踏み出すぞ


「きさまぁ、脱税ばっかし腐ってからに!もう許さん!」


「うるせえ!こんちくしょー」


「この犯罪者め、お前に出来ることは詐欺とマッチポンプだけだ!」


・・・なんか違う気がしてきたぞ チラッ チラッ


「おい、お前!こっちに来て手伝ってくれ!」


どうやら俺の方に向かって叫んでいる。フリチンを一緒に取り押さえてくれ、ということか?


「ニヒッ、気にしないでいいんですよ、お気にせずニヒヒッ!!!」


フリチンは殴られながらも、俺に愛想を振りまきながら先に進むよう促してくる。顔は晴れ上がり、歯ぐきから血が滴り落ちて、笑顔が逆に痛々しい。


これは一体どういう状況なのだろう。


このまま足を上げ続けて止まっているわけにもいかない。


「ふっ!ふぉーっぶ!」


俺は自分でも生まれて奇声をを上げた。そして13歩目を踏み出す。何も起きない。そのまま一気に駆け出し50歩目に到達した。ガッと目を開く。


「何にもおきんではないかっ!」


地団太を踏み、ぐるりと振り向くと、いつの間にか取っ組み合いは終わってしまったようだ。人影が1つだけ見える。俺はこれは一体どういうことなのか、問いただそうと人影に駆け寄った。


「ぜーはーぜーはー」


汗だくで呼吸を整えようとしているのはフリチンではなかった。


「おい、どうなってんだ、アンタあそこからぶら下がってた人だよな?」


俺は上に向かって指をさす。


「俺は税金の取り立て屋だ、やつは逃げたんだ、1銭も払わずに」


「取り立て屋?野郎、地ならし屋だと名乗っていたぞ」


「俺はな、一部始終、ずーっとあんたらの行動を見ていたんだ、わかったことが1つだけある」


男は泥だらけになった下半身を払いながら、哀れな目をしてこういった。


「あんたは何もわかっていない、どうしようもない人だ」


その後、俺は取り立て屋から事情を聴いた。あのフリチン男は金持ちからの依頼で泥棒に入っていたらしい。そして泥棒に入った家というのが、なんと依頼主本人の屋敷だというのだ。依頼主本人が被害者になれば、本来払うべき税金を払わずにすむというのだ。ついでに泥棒に入られた可哀そうな人、という悲劇の主人公様としてのキャラで生きていけるというのである。


(なんということだ、けしからん。今度俺もやってみよう。いや無理か)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る