第38話 この世は常に動いている

さて、と立ち上がり空気を入れ替えようと窓を開けると、声が聞こえてきた。

向かいの建物の屋上に2人の人影が見える。


「住民ZEI!」


「かっ・・・はっ・・・」


片方が一方的にもう片方を攻撃しているようだ。ZEI!という掛け声で斬撃がヒットしているように見える。


「所得課ZEI!所得ZEI!法人ZEI!住民ZEI!事業ZEI!消費課ZEI!消費ZEI!酒ZEI!たばこZEI!」


おお!9連撃!


「揮発油ZEI!石油ガスZEI!航空機燃料ZEI!石油石炭ZEI!電源開発促進ZEI!自動車重量ZEI!国際観光旅客ZEI!関ZEI!とんZEI!地方消費ZEI!軽油引取ZEI!自動車ZEI!鉱区ZEI!狩猟ZEI!鉱産ZEI!入湯ZEI!相続ZEI!贈与ZEI!登録免許ZEI!印紙ZEI!不動産取得ZEI!固定資産ZEI!特別土地保有ZEI!事業所ZEI!都市計画ZEI!水利地益ZEI!共同施設ZEI!宅地開発ZEI!国民健康保険ZEI!」


さらに29連撃!!


「法定外目的ZEI! ZEりゃぁぁぁぁあああああああああ!!!!」


とどめの一撃でポーンとどこかに飛んで行った。断末魔の声が響き渡る。


「はばやぁ~~~~~~~じぇいぎんば払っだらまげぇぇぇ~~~」


このセリフが俺の脳内で反芻する。


じぇいぎんば払っだらまげぇぇぇ~~~


じぇいぎん ば 払っだら まげぇぇぇ~~~


ぜいきん は 払ったら まけ~~~


・・・税金は払ったら負けだと!?


あいつらは一体なんだ?俺は部屋を飛び出すと、二人がいた建物へと向かった。金属製の階段を駆け上がり屋上に着くと、パンツ一丁の男が仰向けになって倒れている。


俺は倒れている男に声をかける。


「大丈夫か、しっかりしろ」


「・・・」


反応はない。だが息はしている。


「その男は金の亡者だ」


後ろから声がした。


「何者だ?」


「金の切れ目が縁の切れ目、さらば!」


声の主は建物から飛び降りた。信じられない屋上だというのに。


「おい、あんた、何が起こったんだ」


仰向けにひっくり返った男に声をかけてみる。パンツからおペニスが横にはみ出している。別に見たいわけではなかったが。


「やられた・・・全財産・・・持ってかれたよ」


「強盗か!?」


「違う、もっと恐ろしいやつらだ・・」


強盗よりも恐ろしいやつだと?


「ゼイム・・シ」


「・・・・・」


デジャヴだろうか、この状況どこかで見たことがある気がする


・・・そうだ思い出した


あれは夏の日の、蒸し暑いアパートでのことだ


やつは何の前触れもなく、突然現れたのだ。


あれは俺がまだベルクートでこき使われていたころだった。疲れてアパートで寝ていたところ、ドアをノックする音がした。そしてエヌ栄一だか敬一とかなんとか名乗る人物が現れ、金をむしり取っていったのだ。その人物は毎月決まった時間帯に現れ、俺が居留守を使おうとも執拗に訪問してきて、このあたりの住民はみんな払っているなどと言葉巧みに俺から金を巻き上げていったのだった。


あとで職場で聞いてみたら驚いたことに払っていない人も結構いた。先輩は払っていない人たちに結構な嫌味を言っていた。そしてそのあと嫌味を言われたほうは俺にその話はもうするなといってきた。


この世には知らないほうがいいこともあるということなのか。


「うう・・・私のタンス預金・・・」


死にそうなうめき声を上げながらハミちん男は気を失いかけている。このままほおっておけば風邪をひくどころか命に関わるかもしれない。俺は男を担ぎ上げると、上がってきた階段を下りる。階段は錆びついており、経年劣化が進んでいる。


ミシミシと音がする


2人分の体重を支えるだけの強度が残っているのか、心配になりながら一歩ずつ慎重に足を進める。ふと顔を上げると向かいの建物に先ほど屋上から飛び降りた人物がいた。


どうやらベルトが建物の柱から飛び出したフック上の棒に引っかかってしまっている。態勢は逆さづりで宙ぶらりんだ。体の袖や、服のポケットから、高価そうな腕時計や貴金属性のアクセサリーがポロポロと落ちた。


ベルトをはずそうと必死でもがいている。


こちらがギョッとしていると、向こうが顔を上げた。そしてがっちりと目が合ってしまった。


「・・・!」


静寂。


バツの悪そうな表情で


「か・・金の切れ目が・・縁の切れ・・目」


とこちらに向かって蚊の鳴くほどの声をだした。


「あ・・・あんた、エヌ栄一か?」


「え?」


「ならエヌ敬一か、敬一だな」


「いや、違う」


「とぼけてもいかんぞ、敬一。キサマは貧しいものからのみならず、富める者からも奪おうというのか」


「誰と間違えている」


バタバタともがく。ポロっとまた何かが落ちた。カバンが少し避け、穴が開いている。そこから奪い取った金品が零れ落ちているようだ。


「おい、助けろ」


先ほどまで弱弱しかったのに、急に強気になりだした。


「私は・・・はぁお前のような無学そうな男に言っても分らんだろうが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る