第35話 俺が勇者の敵ってことになりそうなんだけど、どうしよう

匿ちゃんに一緒に来るかといわれ、俺はお城の堀まで歩いて来た。たくさんの人々が興味津々で眺めている。


「さて、私、今お城の前に来ております。たくさんの人が見学に集まっております。堀から何が現れるのでしょうか?」


レポーターの声が聞こえてくる。俺はその声の主を見て思わず吹き出してしまった。記憶の世界でみたあのレポーター気取りの生徒だ。大人になり、本当にレポーターになってしまっている。


匿ちゃんに怪訝な顔をされた。


「はたしてここから何が出てくるのでしょうか、楽しみですね。術式財団完全子会社、知ったか乙兵衛が提供しております。」


~♪


酔えばリベラル 冷めればほっしゅ!ほっしゅ!戦術予算は思いやり~ ♪


水門が開いたのは実に150年ぶりであることが、レポーター気取りもとい、知ったか乙兵衛の解説で分かった。


「さあ市民の清掃ボランティアの方々が、次々とお堀の中に降りていきます。皆さん足を滑らさないように気を付けてくださいね。」


堀の中は数十人の人が降りていく。


「うわぁ~でかい」


「大人しいナマズだから触っても大丈夫かな」


親子連れがナマズのそばで和気あいあいとしている。子どもがナマズに触れた。ナマズは特に抵抗することもなく横たわったままだ。ナマズが危険ではないと分かると、ほかの人たちもナマズに近づいていく。触ったり、ポーズを取ったりする人もいる。

カップルの2人がナマズに近づいていく


「おい、触ってみろよ」


男は女を口説きたいのか、勇敢さをアピールしたいのか、ナマズを撫でまわす。女の方は気持ち悪がって近づこうとしない。


ナマズに興味がない者たちは、堀の底から出てきた壊れたスクラップの山を泥から引っ張り上げたりしている。


「これは・・・なかなかの年代物の家具だぞ」


引き出しを開けると一枚の円い金属が転がり落ちた。わっ!と声を上げて慌てて拾いあげ、袖で泥を擦り落としてからまじまじと見つめた。


が、ちぇっと舌打ちし捨ててしまった。


金貨だとでも思ったのだろう。別の人が声を上げた。


「おおっ!これは・・・いいんじゃないか」


拾い上げて高らかに持ち上げた。手には旧王国のマークが刻印された銅板のようなものがある。


「なぁおい、これ見てくれよ」


興奮気味にそばにいた鑑定士に声をかける。


(・・・あの鑑定士はホームレス科にいたやつではないか!?)


「んーこれは先代の刻印がハッキリと見て取れますね、鑑定の館で詳しく見てみましょう」


「おおっ、館行き(やかたいき)が出ました!早速ですか、まだ始まったばかりだというのに、このお堀、まだまだお宝が眠っているかもしれませんね!」


「おい、館行きが出たってよ」


「まだきっと沈んでるはずだ、探せー」


それまでのそのそしていた市民たちも必死になって泥をかき出し始めた。ナマズを怖がっていた女も、目を輝かせてスクラップをひっかきまわしている。


あんなに嫌そうだったのに。


お堀に入っている人たちは夢中で宝探しだ。しかしそんなものには目もくれず、人込みを避けながら、堀の一番奥にズンズン進んでいく一団があった。


勇者一行である。


「あーあー、みんなあんな泥まみれで必死になって」


盗賊は呆れたような声をだす。


「馬鹿どもにはいい目くらましさ」


勇者はこれから天空の城に乗り込む大佐みたいなセリフを吐いた。そしてつるつるの堀の壁に手を伸ばし、さすりながら歩きだした。俺はモブマントを被り、3人についていく。


・・・3人?確か4人だったと思ったが?


「この辺だと思うがな、おっこれだ」


勇者は両手で壁をなぞり、頷いた。


「なあ盗賊、この壁さすって見ろよ、わかるだろ」


「うん、でも僕にできるかな・・・」


「・・盗賊さん頑張って・・・一思いにやればいい・・・無理はしないで・・・」


3人目の仲間は暗い感じの髪の長い女だった。自分に人気がないのは、他人の見る目がないからであって、自身の努力不足という考えには決して至らなそうなひねくれたオーラを放っている。


(え・・嘘?)


盗賊は堀の壁を素手で登っていく。壁に張り付いたクモのようだ。あいつあんなことができたのか。


驚愕した。


この様子を書き留めるべくペンを走らせる。が、一行も書き終わらないうちに盗賊は滑り落ちてしまった。


派手に泥水が跳ねる。勇者は頭から泥に突っ込んでしまった盗賊を慌てて引っ張りだして救い出した。


そんな様子を暗い女は(・∀・)ニヤニヤ しながら見つめている。


一体何が起こったんだ!?何がしたいんだこいつらは?


「あーもう!騙された!ガセネタだったんだよ!あーちくしょう!」


「盗賊さん・・・・・・・・・・・ドンマイ・・・」


「お前なんだその間は!?」


泥まみれになった盗賊は喚き散らした。いや、あの情報屋がそんな嘘を言うとは思えないと勇者はいった。


「はあ?何を根拠にそんなことをいうんだよ?現にこの壁、登れなかっただろう」


「それはだな、・・・あの情報屋は信用できる。500Gも支払ったんだ。そんな気がするからだ」


「・・・」


人は価値のわかりにくいものに、対価を大きく支払うと、現状損をしていてもいずれ見返りを受けることができるという考えにとらわれます。そして結果ドツボにはまることがあります。情報、株式、投資話などには十分注意しましょう。


勇者一行はもう一度聞いてこようなどといい、お堀の入口の方へ歩き出した。俺はじっと壁を見つめ、手のひらで壁をなでてみた。すると、指が2センチ程壁にめり込んだ。


「えっ、何?」


まるでゴム毬みたいに凹む部分があった。見た目は完全にただの壁なのに。これなら握力があれば登れそうだ。俺はまず右手を壁にかけ、左手をかけられる部分を手探りで探した。しっかり5本の指を掴める部分を見つけ、落ちないように気合で体を支えた。


あっさり登りきることができた。


お堀を登りきると市民から「越えられない壁」と言われている城の城壁に囲まれた、箱庭のようなところに出た。


そして地面に鉄板が敷いてあって、隙間から地下道へと続く階段が覗き見えた。これはきっと匿ちゃんが置いたのだろうな。鉄板をずらし、地下へと潜り込む。


中はかなり広い。王国の地下迷宮といったところか。柱には旧王国のマークがもれなく刻印してある。


そして真っ赤な深紅の宝石がついたSランク級の宝箱が、宮殿の中央に鎮座している。


そーっと少しだけ開けて、中身を見たいと思ったがやめた。なぜなら一度開けると二度と蓋を閉じることができなくなる気がしたからである。


それに誰かが一度そーっと開けて、閉じて戻した形跡のある宝箱なんて、たとえ中身が良くても微妙な気分になるだろうが、俺はプレゼント交換のときに包みが緩んだやつを貰ったことがあるんだ。(中身は芯の入っていない使いさしのシャーペンでした)


ああ、でもやっぱり中身が気になる。


開けてみたい、けど開けられない。


ほんとは今すぐ抱きしめてこの宮殿から飛び出したい。


そんなポエムを口ずさみながら、宝箱の前でステップを踏んでいると、後ろからガタンと音がした。


振り向くとそこには勇者一行がいた。


ぽかあんとした顔でこちらを見つめている。


ふっ・・・これはまずいことになったと思った。



( ゜д゜)

( ゜д゜)      俺 宝箱

( ゜д゜)


これはつまりどういうことかというと、俺を倒して宝箱を取るというイベントが発生したということなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る