第33話 喫茶店の香ばしい中の出来事

「キシシシ・・・」


声が聞こえる。目を開けると天井が見えた。見知らぬ天井だ。


「次の裁判は明後日頃を予定しておりマス。市民の皆様、お気をつけてお帰りくだサイ」


どたどたと大勢の人の足音が聞こえてくる。意識はハッキリしている。記憶もハッキリしている。先ほどあったことをしっかりなぞることができる。


「そうか・・・ここは裁判所だな」


体を起こすとベットに寝かされていたことに気が付いた。


「キシシ・・・良かったお目覚めですね」


声がした方を見ると、法廷画家が椅子に座って、笑顔で俺を見ていた。


・・・この人の笑顔怖っ・・・歯茎むき出しで眼は大きく見開いている。


まるで、悪魔みたいだ。


「お顔が少し・・・キシシ・・・汚れていますよ」


そういわれて顔を手のひらで拭うと、手のひらが少し黒くなった。鉛筆の黒鉛だろう、6B、いや8B鉛筆か?


そこへスーツを着た役人が部屋に入ってきた。


「あ、良かった、気が付かれましたか」


俺はスッと起き上がり、平気だということを伝えた。


「結構刺激の強い内容でしたね、まあ裁判なんでね、非日常的な話も聞かされて疲れたことでしょう」


「倒れられる人も結構いますよ」


役人は検討違いのフォローをしながら俺を裁判所の出口まで付添ってくれた。


裁判所から出ると公園のベンチに再び腰を掛ける。一体さっきのは何だったのだろうか・・・夢か幻か?VRか?それにしてはやたらと生々しかった。あれこれ推理してみたが結局答えはでない。頭の使いすぎのせいか、クラクラした。パンケーキ食べたい。


そういえば今何時だろうか。時計を見上げると俺が裁判所に入ってから、30分も経っていない。


「ちょっとあんた、うちの息子に何か用か!?」


男性の声が聞こえてくる。声のした方を見ると、裁判所にいた父子と法廷画家がいた。男性の手には絵が握られている。法廷画家が描いていたのを取り上げたのだろう。


「いやちょっと、良い被写体だなと思っただけですよ、キシシ・・・」


「勝手に人の息子をスケッチしないでくれ」


男性はそういうと取り上げた絵を破り捨て、息子をつれてさっさと行ってしまった。


俺は法廷画家に声をかける。


「なぁちょっといいか?」


フードを被った俺を一瞥した法廷画家はプイとそっぽを向いた。相手にしてくれそうにない、さてどうしたもんか・・・


「パンケーキおごるからさ」


2分後


俺と法廷画家は喫茶店のテーブル席に向かい合って座っていた。なかなかの甘党である。


「あんたは何者だい?」


「こっちのセリフですよ」


ここは嘘をついてでも、話を進めよう。


「私は画商だ、あんは芸術家なんだろう?」


ピクリと法廷画家の動きがとまり、わずかに笑みがこぼれた。


「キ・・シシ・・・」


そうだこの笑い方だ。


「キシシ・・・そんなこと言って、あなたはヤバい人ですね・・・」


法廷画家は断りもなく、俺をスケッチし始めた。


「ヤバい人ではないですよ」


我ながら間抜けな回答だと思った。


「あ・・あ・やはりそうだ描いても描いても見えてこない」


「なんだ、それは」


「私が人を書くとその人の記憶の世界が見えてくるというのに、あなたはまるで何もない・・空だ」


俺がさっき見たのは、被告人の記憶の世界だったということか、これは面白い。この法廷画家にいろんなひとを描かせておけばきっといろいろ役に立つ。


「あー見えない・・見えない」


画家の書いた絵を見ると、そこにはフードを被った真っ黒に顔を塗りつぶされた人物が描かれていた。


「大丈夫だ、ほら」


俺はフードをめくりあげた。素顔をさらすのは危険だがこうでもしないと信頼を得られないだろう。


「おお・・おお・・!」


あっという間に俺の顔を描き上げると、描けたことが嬉しかったのか、飛び上がって喜んだ。この画、貰うねと俺は言い、金貨を1枚差し出した。画の代金としては法外だが、心づけのつもりで奮発したのだ。


法廷画家は


・スランプになったかと思ったらそうじゃなかった。安心した。


・K3Gとしてまだまだやっていける(KGB諜報員の組織みたいなものか?)


・今日の仕事だった法廷画が駄目になってしまい、金にならなかったが、これで助かった。


・近くに危険が迫っている。


要約するとこんな感じのことを10分くらいかけて話してくれた。

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