第30話 人は信じたいものしか信じない

俺はまずバケツを掴み上げると、天井に届くかという勢いで持ち上げた。そして突然バケツがフワリと空中に浮かび、驚いている女の頭にぶちまけてやった。こんな子どもに舌打ちするようなバカ女、これくらいの仕打ち当然だろうが。


1 と答えた人 優しい人です 女に惚れられます。ですが惚れられた女から要求がエスカレートしがちになるので注意


2 と答えた人 規則的なものを重視する人です。公務員に向いている 知らんけど


3 と答えた人 コナン君です 


ちなみに選択しろといわれて選んでしまった人は詐欺にあう確率が上がります。注意しましょう。


ジャージが潜り抜けるように頭を下げて教室に入ってきた。


「何の音だ?どうしたんだ?」


そしてペーストまみれの女は錯乱した様子で喚き散らしている。


「ギャーッ!この学校には幽霊がいる!だからだ!生徒は可愛くない!もう!私だって安月給でここまで!好きでやってるわけじゃない!魔王!魔王が悪い!この世のすべての悪事はすべて・・・ああぁあーーっ!聖夜君!(恐らく彼氏かホストの名前)聖夜君助けに来てぇ!!!大体あのポスターは何??ムカつく!」


「まぁ落ち着いて、とりあえず保健室に行こう」


ジャージはキンキン声で喚く女をなだめはじめた。しかし、女は一向に収まる気配がない。


「あんたの勤務先の工場に誰か来てもらおうか」


ジャージは憮然顔で言った。すると一瞬ピタリと止まり、大人しくなった。


女は肩をわなわな震わせながら、ジャージと一緒に教室から出ていった。


ちらりと教室の後ろを見ると生徒が書いたと思われるポスターがたくさん飾られている。


『お前らのアフターライフは預かった!!返してほしくば100万G用意しろ!!』


ポスターを眺めているとなんだかソワソワしてくる。細い目をし、ゆがんだ大きな口から鋭い牙が2本つき出している。真っ黒で山のような風貌は特に珍しくもないデザインで、どこかで見たような気がする。


しかし切々と訴えかけてくる迫力がそこにはあった。


細い目と目を合わせると、口の中に書いてあるセリフが否応なしに頭の中で反芻させられた。固く目を瞑り頭を振り、気を取り直すと俺も教室から出た。


するとペーストまみれの女がリポーター気取りの生徒にインタビューをしながら廊下を歩いていた。


「あんたあの男の事、知ってるのよね!?」


リポーター気取りは引きつった笑顔をするだけで何も言わない。ペーストまみれの状態で何を言おうとただただ滑稽である。取り巻き連中はゲラゲラ笑っている。


「おら、笑ってんじゃねぇ!」


ジャージは生徒に喝を入れたが顔はなんだか怪しい。表情筋がピクピクしている。


「俺らは何にも知らねえよ、ちょっとふざけてただけだよ」


取り巻きの1人が笑いながら


「あの人の事好きなの?あの人の嫁さんみたことあるけど、あんたより綺麗だったよ」


「ちょっと!聞いているのはこっちなのよ!質問を質問で返すってどういうこと!」


女はメラメラと闘志を燃やしながら今度はジャージのほうに向かって叫び始めた。


「どういう教育をしてんのよ!」


ものすごい熱気がこちらにも伝わってくる。凄い何たる迫力・・・まさに天翔ける龍がごとく稲妻を背に向かって雄々しく吠える白虎たるその様


ミサ姉に劣らず!


矛先がジャージに変わってリポーター気取りはホッとした様子だ。


そしてジャージも何やら言い返しはじめた。


「コノヤローお前がここの生徒だったとき、いろいろ面倒見てやってたのに、恩をあだで返すとはこのことだ」


どうやらペースト女はここの卒業生だったらしい。


「うるさい、あんたから学んだことといえば、ここはマルチ商法みたいな場所だということだけだわ」


続けてペースト女は鼻息を荒くしながら


「それともあんたが私の奨学金返済してくれるわけ?この種なし野郎!」


そばにいたリポーター気取りは二人を交互にみると、ス~ッと静かに胸像の方へと移動していった。


そして


「えーこちら、学園創立者X氏の像の前にきております。私なんだか像の頬が濡れているように見えます」


と呟いた。


(そうかな、俺には爆笑したいのを我慢しているようにみえるがな・・・)


胸像を周りをぐるりと周ってみたがかなりの年代もののようだ。台座にはコケが生えていたりしてあまり管理が行き届いていないようだと感じた。


(こいつがこの私立術式学園とかいうマルチ商法の親玉か・・・)


胸像を眺めるのに飽きると、俺は透明なのをいいことに次々と教室を覗いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る