第28話 大人の事情により子供たちには支配させていただきます。
俺という侵入者のすぐ隣で、ジャージはふんふんと鼻歌まで歌い出した。
なんという余裕だ。
きっと目があった瞬間、肉食獣が草食獣を捉えたときのように牙をむき出しにして襲い掛かってくるであろう。
・・・
貴様、なぜここにいる。どうやって入ってきた!?
怪しいもんじゃないんです。裁判所にいたら、陪審員がケンカしだして、それで法廷画が顔に飛んできて、そしたらなんかヤギのオバケというか悪魔が出てきて、そいつにおもっくそ吹き飛ばされて、いつの間にかここにいたのです。
駄目だ、これでは完全に頭のおかしいやつだ。どう言い訳しようかと考えていると、鏡が目についた。
俺の姿が映っていない!
ギョッとしていると、ジャージはぐるりとこちらに向きなおると、俺のことなど気にも留めず、中庭の方へと行ってしまった。
ジャージが俺の目の前で髪型をチェックしたり鼻歌を歌い出したのは余裕だったからではない。
俺の姿が見えていなかったからだ。
一体これはどうしたことなのだろう。鏡の前に顔を5㎝の手前のところまで近づけてみる。完全に真正面からとらえているのに俺の顔は全く映らない。
その代わり映っているのは2人の人物だ。
振り返ると、ジャージと一緒にいた生徒と男がゆっくりと歩いていた。
まるで怪我をした病人に付添う看護師と病人のように見えた。
校舎の窓から生徒がひとり顔を出した。連れ出される男をじっと見つめている。
「えーただいま、犯人が連行されていく模様です」
声がした方を見ると、やんちゃそうな生徒がレポータ気取りで実況をしている。
いつの間にか40人ばかりの生徒が校舎の窓から顔を出している。
やんちゃそうな生徒の取り巻きの数人がクスクスと笑ったが、ほとんどの生徒は白けた顔をして、ふたりを注視していた。
異様な光景だと思った。ここは子どもが支配しているのだろうか。
「はーいみなさーん!教室に戻ってくださーい」
明るい声がした。小太りの女性が手を叩きながら生徒たちに呼びかけている。
「教室に戻らないと大変ですよ~」
「戻らない人はマザコンの共産主義者に間違われますよ~」
「戻って席についてください~」
「席に着かないとサブカル漬けの廃人になってロクな大人になれませんよ~」
生徒たちはやれやれといった感じで各々、教室に戻り始めた。
一番最初に顔を出してた生徒だけが戻ろうとせず、じっと2人を見つめていた。
しかし直接促されると名残惜しそうにしぶしぶ教室に入っていった。
「はい皆さん、席に着きましたね、それでは給食のつづきにしましょう」
机の上にはお盆が乗っており、ヒタヒタにペースト状の流動食が注がれている。
それをスプーンですくって食べている。観察してみるとちょっと面白いことがわかった。食べ方は皆、それぞれに違ってる。無表情で一定のペースで口に運ぶもの。ガツガツ食らうもの。二口くらい食べただけで、あとは手を付けずただぼーっとしているもの。パンを小さく砕いて混ぜコネてから食べるもの。
大体この4グループくらいに分けられるなと思った。
「皆さんの食事は食品工場からほとんど無償で提供していただいているのです。皆さん感謝していただきましょう」
「全部食べた方には寄付金からキャッシュバックが贈られます」
「アンケートカードにも名前と感想文を忘れないように記入してください」
教室の中をそういいながらぐるりと一周した。
欲望の赴くままにがっついている生徒には笑顔で接し、食が細い生徒には何も言わず、席を通り過ぎる際、軽く舌打ちをした。
教室のちょうどど真ん中に当たる席は空席である。
「おや、1人欠席ですね 誰の席ですか?」
一瞬、静まり返る教室。
そしてすぐに食器が当たる音や雑音にまみれたいつも通りの風景に戻った。
「えーとこの席の方は・・・」
パラパラと書類をめくりはじめる。名簿を見つけるとその席の名前を呼ぼうとした。
その刹那
チャイムが鳴った。食事時間は終わった。みな一斉にに立ち上がり粛々と食器を片付け始めた。食べ残しがポリバケツに次々に投機される。
ポリバケツはすぐにあふれんばかりになった。
アンケート用紙が次々と箱の中に入れられる。生徒はすぐに教室を出ていく。
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