第27話 ピンチとチャンスは紙一重といいますが、これはタダのピンチです。

「はーっ、はーっ、がばはぁ!ゴホッ!」


思いっきりむせてしまった。深呼吸をひたすら繰り返す。


俺は闇の世界から脱出したようだ。明るい。戻ってこれた。


のたうち回りながらも、喜びを感じた。汗だくで体全体がしっとりと重い。


ものすごい不快感だが、ちゃんと不快だと感じることができたことが嬉しかった。


俺はちゃんと生きている。


そう確信して立ち上がると、鼻の頭からポタリと大粒の汗が垂れた。袖で汗を拭い、ズボンのベルト緩めて腹を出すと、風が吹いてひんやりとした。


「ここは・・・一体どこだ?」


インナーをバタバタやりながら辺りを見回す。目の前には花壇が広がっている。立ち上がり、見上げるとぐるりと高い建物に囲まれていた。


「皆さん教室に入ってください。」


アナウンスが流れた。


ここは学校の中庭だ。だが彼は「学校」そのものを知らない。


「不審者が侵入しました。皆さん教室から出ないでください。」


再びアナウンスが流れる。何かものすごくヤバそうな雰囲気だな。


キャーキャー騒ぎ声が聞こえてきた。


教師と生徒の2人組がこっちに向かってずんずん向かってくる。


まずいっ!捕まる!


とっさに出口に向かって走り出す。が、俺が向かった先は行き止まりである。


水道の蛇口がずらっとならんでおり、それぞれにせっけんが網ネットにかけられてぶら下がっている。


そして薄汚れた鏡が壁に張り付いている。あっさり2人組に追いつかれる。


どう言い訳しようかと一瞬、考えたが俺のことを素通りしてしまった。


完全スルーというやつである。


「はあ、またあの男かよ」


ジャージを着た筋骨隆々な教師がウンザリしたような声を上げる。


「私が説得してきます」


生徒がそういうと、小走りで行ってしまった。ジャージは「そうか任せたぞ」と呟いて生徒を見送った。


2人っきりになる。


そうかこれから俺はこのジャージに捕まるのか、南無三!


背丈は190㎝くらいはあるだろうか、匿ちゃんよりは確実に大きい。


もしジャージではなく、トレンチコートを着せてフェラード帽を被せたならば、R市街にて遅刻新米警官とブラコンじゃじゃ馬女子大学生を追いかけていそうな雰囲気になるであろう。


くるりとこちらに向き直ると、ジャージは鏡をのぞき込む。そして髪型をチェックしはじめてしまった。


俺はゴクリと唾を飲んだ。この男は俺などいつでも捕らえることができるというのか。




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