第24話 暇なやつは裁判所でタダで傍聴しよう。

店の外に出ると、いつも通りの日常の光景が繰り広げられていた。モブマントを被り、ベンチに腰掛けると聴覚が異常に発達してくる気がする。自分はここにはいない、我は何の主体性もない。風景と同化する。そう念じて耳を澄ませる。


商売に精を出すもの、荷馬車を押して物資を運ぶもの、畑で農作物を育てるもの、ほとんどのものが見な、自分の生活に必死だ。ダルそうにしているやつらは、旦那の悪口、友達の陰口、ご近所の噂、など。


葉巻を咥え、煙をプカプカさせながら、俺はひたすら情報を探す。

町の人「おい、裁判があるってよ。」

町の人2「マジか」

異邦人っぽい人「サイバンガアルマジカ」


・・・うむ、どうやら裁判があるらしい。

俺は首を左右に軽く振り、ぽきぽきと音を鳴らして立ち上がる。これ本当はあんまりやらないほうがいいらしいのだが。


さて、どこに行けばいいんだ?


目の前に大きな裁判所がある。どうやら誰でも入れるらしい。パラパラと近くにいた人が入場していく。


子ども「裁判って何、何が始まったの」


親「悪いやつを捕まえてきて、どれくらいの罰を与えるか決めるんだよ」


裁判所の中に入ってみる。初めてきたけど、殺風景なところだ。扇形に椅子が6列、3行並んでいて真ん中に薄っぺらい絨毯が敷かれている。大きな机が置いてあって、その上には何やら大きな本が置いてある。そして中央には1平方メートルくらいの木の板が置いてある。どうやらここに罪人は乗せられるらしい。


「傍聴したい方は、並んでください。」


裁判所の役人っぽいスーツを着た人が集まった人々に券をを配っている。

俺もモブマントを被り、並ぶ。


「ふう、よっこらせっと」

俺は最後列の右端の傍聴席に座った。裁判所の中は座席の3分の1くらいが埋まっている。一体どんなやつが出てくるのだろう、ワクワクする。目の前に人が座った。

スケッチブックを抱えてベレー帽をかぶっている。ステレオタイプというか、もう見たまんまの画家である。いわゆる法廷画家というやつか。スッと鉛筆を取り出し、カッターナイフのようなものでシャッシャッと削りだす。そして、ある程度削るとふっと息を吹きかけ、仕上がりを確認する。


「ねーなんか学校の全校集会みたい」

無邪気に父親に子どもがはしゃぎながら連れられてきた。親子連れがちょうど俺の右左前にの席に並んで座る。

「しっ、静かに座ってろ」

父親が子どもに注意をする。

「あそこから悪いことをした人が連れられて出てくるだろ、お前も悪いことをするとあそこに立たされるんだぞ」

教育熱心なパパだと俺は思った。そして同時に自分の父親のことがチラリと頭をよぎった。顔は全く覚えていないが、おぼろげに顎鬚があったのだけは覚えている。


今頃何をしているのだろう。

人がまばらに入ってきて、傍聴席がどんどん埋まってくる。50ほどの席は30人くらいの人々で埋まったところで入場制限がかけられた。ダークスーツを着た役人が扉をふさぎ憮然とした表情で仲間の役人たちに合図を送った。


「エー皆さん静粛に、静かにお願いしマス」


わざわざしていた人々が、しんと静まり返る。そして空気がピッと引き締まる。


「市民の皆様、本日はお忙しい中、ご参加いただき、誠にありがとうございマス」


どこから声がしているのだろう、声の主の姿は見えない。

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