第23話 飯くらいゆっくり食らわせろい

温泉宿を出ると、安心した。すると腹が鳴った。向かいのラーメン屋に入ると、一番安い定食を頼んだ。は~いと元気のいいおかみさんが、オーダーをとり、そのついでにテーブルを拭いてくれた。


「おい、外が随分騒がしいが、何かあったのか」


主人がおかみさんに心配そうに尋ねた。


「さぁ~なんだろ、関係ないんじゃない」


と応えると、つまらなそうに食器を洗い始めた。


あーマジ結婚してえ。唐突に生まれた結構願望。どこか良家のお嬢様と結婚して、静かにひっそりとのんびり暮してぇ。


カランコローン


扉が開く、客が二人入ってきた。


「ちょっとマジ、俺ら臭くない?大丈夫!?」


「平気だ、あの下水道は過去に僕と仲間で掃除したんだ、実際、そんなに匂わなかっただろ」


どっかできいたことのある声だ。


「下水道にあんな隠し部屋とかあったとはな、俺が一生懸命働いてる間に、あんなところで一体何をしてたんだか」


「うるさいな、あんたには関係ないことだ」


「けど、泥棒の癖に、泥棒にあってしまうとはなあ」


「ぐぬぬ」


チラリと横目で彼らを見ると、やはり勇者と盗賊だ。


「いつもごひいきにしていただいてありがとうござやす~」


主人がわざわざ二人の前のテーブルまで出て行き、ぺこぺこしている。


「ご主人、麺とスープがどん!ぴしゃ!!な・や・つ・を」


「カレーラーメン2つね(勇者~うぜぇ頼み方すんなよ~ぼけ)」


すごすごと主人は調理場に向かって、料理をしながらぶつぶつ言い出す。


「好き放題しくさってからに・・・・だがいい金づるだと思うしかないか」


「は~い、お待ち~」


俺の目の前に定食が運ばれてくる。


「ごゆっくりどうぞ~」


本来ならゆっくり味わいたいところなのだが、近くに勇者と盗賊がいる。あいつらの言動が気になって、それどころではない。


「これから、どうする?」


勇者が盗賊にだるそうに尋ねる。


「ああなってしまった以上、フラグが立つまでのんびりするしかないんじゃない、しらねぇ」


盗賊は拗ねた子供みたいな態度を取る。


「なんだフラグって?わけのわからんこというなよ」


カランコローン


再び、客が入ってきた。げっ・・・さっきの子分じゃないか 捕まってなかったのか。彼らは何も言わず、勇者たちのすぐ隣のテーブル席に着いた。1人は入ってくるやいなや、新聞を取るとぱっと広げて足を組む。もう1人はうつむいて目を閉じた。


二人とも何もしゃべらない。


対照的に勇者たちのテーブルは話が弾んでいる。


「さっき温泉宿の前、通ったらなんかいかつい連中が捕まってたな」


「そうだね」


「なんだったんだろーな」


「騒がしかったね」


「あれ絶対やばいぜ」


「・・・(実はあの中に知っているやつがいたんだけど、言わないでおこう)」


「孤独死予備軍団様のお通りでぇーいってか!」


「おーぅ、過激発言きたこれ」


二人は先ほどの騒ぎをネタに話まくる。これ絶対、隣の二人に聞こえてるよな。冷や冷やする。


「まぁあんなのカッコだけだわ、俺ならちょちょいのドンだわ」


「ちょちょいのドンって何!?何なのあんた?」


「何なのって盗賊さん、あなた、ご存知ありませんの?初めてですよ、あなたのようなおばかさんは」


中学生みたいなノリではしゃぎまくる勇者と盗賊。石像のように動かない子分の二人組み。


あーもう早くここから出たい。だが目の前の絶品料理がうますぎて残すのはもったいない。


いままでのあの食堂は一体なんだったんだ?


カレーラーメンが勇者のテーブルに届く。香ばしいにおいがあたりに立ち込める。おかみさんが二人組みにの前に立つ。


「ご注文は?」


と、ここで俺はカレーうどんを誰かが頼むと、来客の2人に1人がカレーうどんを頼むという、現象があることを思い出した。子分のうちの1人が黙ってメニューを指差す。そしてピースサインをお上さんに向ける。


女将さんは「・・・・かしこまりました」


といい、少し青ざめた顔でそそくさと厨房のほうへ入っていってしまった。


いやいやいや!


そういう注文の仕方はないだろ。みんな生活の為に一生懸命はたらいているんだ。

社会の歯車として生きている中、ほんのささやかな楽しみを求めて・・・


カレーラーメン?カレーラーメン?カレーラーメン頼んだの?


その答えは次?


注文はっきりいえよ!


ダ・イ・ノ・オ・ト・ナが!!!


ドクン・・ 何だ?この胸の高鳴りは?


体が少し熱くなってきた・・・指先まで血がしっかり巡ってきているのがわかる。なんだろう、普段より周囲がカラフルに見える気がする。おお、すごい。気分まで良くなってきた。なんだこれは?今なら何でも出来る気がする。


突然混みあがってきた万能感!これはなんだ? なんだ? やばい!


勇者が盗賊に水を持ってくるよう命令した。


「なんで水だけセルフサービスなんだよ、この店は・・・」


盗賊がぶつぶついいながら、面倒くさそうに腰を上げた。


「おーっ水だ、これって軟水?」


勇者はグラスを鼻に近づけにおいをかぐ。


「ふむ、別に変なにおいはしないな~、お前、先に飲めよ」


盗賊にグラスを差し出す。勇者のやつ、どんだけうざいキャラなんだよ・・・

俺は二人の様子を見ていると、そこでなぜか盗賊の顔色が悪いことに気づいた。

盗賊は勇者にもうこの店出ようぜといっている。


グラスを手に取ると、ぐぃっと一気に飲み干した。


「おーっ、いい飲みっぷりだね」


勇者は笑顔で言う。じゃあ出ようかと盗賊は立ち上がった。


「お勘定、お願い」


盗賊が伝票を持って立ち上がる。女将さんがいそいそとソロバンをはじきだす。パチンパチンとソロバンの玉がぶつかり合う音が店内に響く。


「女将さん、この葉巻1本もらうね」


勇者がレジカウンター脇のシガーボックスからスッと抜き取る。


「お、その分のはお前払えよ」


「は?いいじゃん、一緒に払っとけよ」


勇者は自分の鼻に近づけ、火をつける前のこの香りがいいよなといい、まだ会計も済んでいないのにシュッとマッチに火をつけた。


「かーっ、美味い葉巻だねぇ」


勇者は満ち足りた顔で煙を吐き出すと、出入り口に向かって歩き出す。


「えーっと、ちょっと待ってくださいね、葉巻はいくらだったかなー」


女将さんは店主を呼んで値段を確認しだした。あんまり売れないのだろう。俺も勘定して出よう。水を飲み干す。


盗賊の後ろに並んだ。会計をしだすと行列ができるのはなぜだろう?人間は本能的に並ぶのが好きなのかもしれない。勇者の後を後を追って出ていった。カウンターには勇者のマッチ箱が残ってる。


ちょっとデビューしてみるか。スッと手に取ってみる。よく見るととても丁寧に手で巻いてある。先端をストンと切り落とすと、良質の葉がぎっしりと詰まっていた。勇者が残していったマッチで火をつけ煙を吸ってみる・・・うん悪くないな、俺はタバコのみなのかもしれない。マッチ箱をポケットにしまい、会計をすますと俺は出入り口に向かった。


どうでもいいことだが、ちらりと2人組のほうを目をやるとテーブルの上には羽根付餃子が乗ってあった

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