第20話 勇者の友は盗賊

「下水道に精通してるとかありえんわ」


勇者は足元にいたねずみを剣の鞘で追い払い、盗賊に向かって不満げな顔を向けた。


「うるさいね、裏街道を生きるもの、これくらいのことなんでもないよ」


盗賊はちょっぴり顔をしかめながらも、すんなりと施錠してあった扉を開いた。


「オリハルコンのためなら、なんだってやるさ・・・」


ぼそっとつぶやく。この勇者とかいう無法地帯マンといっしょにいけば、オリハルコンに出会える確率は格段に上がると踏んだのである・・・俺みたいなのに無法地帯マンと思われてるコイツって一体・・・


「うひょ!やるな、ここの扉も2秒でOPEN!かい!愉快愉快!」


「いやぁ~親友よ!頼りになるねぇ~」


勇者はニコニコしているが、誰が親友だ、ばかちんが。僕はあの「覆面マント」(勝手にそう名づけた)を羽織、突然姿を現して邪魔してくる、義賊気取りみたいな連中から身を守りたいだけだ。


あいつら、普段どこに隠れているのか知らないけど、いつもどこからとも無くふらりと現れて突然襲ってきやがる。


僕と同じでカタギではないのだろうが、群れていないと何もできないようなやつらに目をつけられたのは、まあ僕がひとりでうまいことやっていることの証明でもあるだろう。ふん!


だが、金的を食らわされ、全てを白状させられた上に、「ふーん、ただの雑魚か」みたいな空気で開放させてくれやがった、あの「援交コンビ」いや「底辺カップル」、うーんこれもしっくりこない「ザツヨウガカリ」これでいいか!


「ザツヨウガガリ」ごときに舐められたことは、僕の人生の汚点だ。これを機に、僕は人とつるむことにした。ただの人ではない 勇者 だ!


「ザツヨウどもめ覚えてろよ・・・」


「お前、どうしたの?きもいよ・・・」


「い、いやなんでもない 先に進もうか」


僕は勇者を後ろにつれて、懐中電灯で前方を照らす。盗賊になって移動・脱出ルートとしてつかっているこの下水道。今なら目を瞑ってでも自分の行きたいところに進んでいける。この下水道には何度も助けられた。子供の頃は雨露を凌がせてもらった。

幼馴染と盗んだパンをかじったり、おばけがでるんじゃないかと冷や冷やしながら道を覚えたんだ。僕の庭みたいなもんだ、この下水道は。


「おい、壁に何か書いてあるぞ」


壁には R=1 < < と書いてある。なんだこりゃ? 懐中電灯で照らしてよくみると結構前にかかれたものだ。普段は明かりをつけないから気がつかなかったが、勇者にいわれてはじめて気づいた。よくみると、ほかにも書いてある おくには R=2 +:と書いてある。誰だ?僕のテリトリーに落書きをしたやつは?


「なあ、なんか音がしないか?」


勇者がこわごわ僕に言う。


「何もしないよ」びびりめ、勇者の癖に。 


「いや、絶対に音がする、何かいるぞ」


「大丈夫だよ、普段と全然変わらないよ」


「そうなのか、それならいいんだが」


勇者は普段より少し、鋭い眼光で辺りを警戒しているが、僕が大丈夫だと念を押すと、いつものナヨッとした感じに戻った。二人はずんずん進んでいき、目的の扉の前についた。鍵をカチャンと外す。中に入るとそこは倉庫になっていた。町の武器屋でよく見かける、兵士が良く身につける王国軍アーマーが無造作に並べられている。

壁には刃のかけた量産型のソード、その下にはビール樽が積み重ねてある。


「そのビールはね、残念飲めないんだ」


蛇口を捻ろうとした勇者を止めて、お目当てのブツが入った箱に手をかけた。

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