第19話 事務仕事を覚えよう

俺が係員になって、早1ヶ月がたった。俺は係員としての職務を全うすべく、ミサ姉と匿ちゃんから訓練を受けた。そして俺の実力は二人を凌ぐ勢いで成長した。訓練中、ミサ姉は俺が課題をクリアしても、ま、いんじゃね?くらいのそっけない態度であった。


しかし影では匿ちゃんに、あいつマジパネェよと色めき立っていたようである。匿ちゃんは「ならば、俺の稽古も受けてもらおうか」と本来半年はかかる課題を2週間でクリアしてきたクソルーキーに息巻いて俺の前に立ちはだかった。


匿ちゃんは俺により早く報告書が書ける「速記術」なるものを教えてくれた。これができるようになると、報告書に事細かに情報を瞬時に書き記すことができるのである。また、1人行動する為の必要最低限のスキルの一つでもある。


この「速記術」がなかなか俺にとっては曲者で、なかなか上達しなかった。匿ちゃんは俺に速記術の練習課題として、1ヶ月間の勇者の行動をまとめるよう、山のような書類を置いていった。ちょっと読んでみようかと、書類に目を通す。


お!一ヶ月前の「逢引」の報告書が出てきた。


日時 2200頃


場所  城下町郊外  宿泊施設 名称 逢引


行為 超法規的徴収 被疑者捕獲


徴収物 イカサマ用カード


勇者における賭博行為において、20万ゴールドの損失 保証無


被疑者ディーラ 賭博行為の為逮捕


勇者における買春行為において、チェンジを3度要求


3度目に業者と口論 勇者本人の妥協により平和的解決


M氏の経費購入 保証無


ふむ、俺が一度逃げ出したこと、それにギャンブルをしていたことは一切触れられていない。身内には甘いのか。そんなわけ無いだろう、食堂前で鉄砲で撃たれた男のことを思い出す。「ケン、ホウコク、マズイ・・・・」とかいってたな。一体あの男、なにをやらかしたのだろう?


ここ数日は速記の訓練を兼ねた書類整理ばかりだ。おかげで随分今までの勇者の行動を時系列的に整理することができた。勇者の行動は俺の想像を遥かに超える常軌を逸したものだった。まるでどこかの狂乱した戦国武将のエピソード添えた、年表みたいなものが出来上がった。


旅立ちの日 


勤務先の会社が倒産、ふらふらしていたところを剣を賞金目当てで抜く


初めて王に謁見 「お顔、やばいですね」とありえない発言をする


翌日


大臣と謁見 1000万Gを軍資金として国から賜る


~1週目


ポンコツの剣を意のままに操る、運動不足、虚弱体質のため実績なし


~2週目


浪費と略奪の日々、ギャンブルと特権まみれの生活、愛刀ラミアスの剣を腰に差し、自由気ままに浮浪する。国民から「ばか」という愛称で親しまれる


~3週目


酒と買春を覚える。道を誤ってしまいそうな人を捕まえては独自の理論を用いた演説めいた説教で諭す


~4週目現在


泥棒と友達になり、共に行動する


ふーっ速記の訓練はもう終了だ。これから勇者に張り付いて、尻拭いさせられるのだろうか。負の遺産を片付けることが俺の人生なのだろうか。これからのことを考えるとどうしても逃げ出したくなってしまう。


この仕事のおかげで、本職のハウスクリーニング屋さんばりに、ベッドメイキングやら清掃はうまくなったが、アロンアルファーでつぼを直すのはもううんざりだ。よく戦争映画なんかで、「この戦争が終わったら農場をやるんだ」とかいってる兵士がいて、そうゆう人は大抵死んじゃうのだけど。


俺の場合、鍛冶屋を創めたいと思う。そして抜けたことを報復しにきた連中に始末されるのだ。考えただけでも身震いがする。余計なことは考えないことにきめた。机の上に広げた書類を片付けると、通信機がなった。


これから勇者のやつら何やら山賊だか海賊だがのアジトに乗り込むのだとか。

俺が訓練中の間、そうゆうことになってきたらしい。勇者のやつ、少しは勇者らしいことをするようになったんじゃないか?


最近の報告書によると盗人と仲間になって、特権と併用して鍵のかかっている金庫やら扉までに手を出そうとしている空気があったそうだが。

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