第14話 凱旋帰国

ぶっ・・・ふはははっははは!!!


作戦大成功である。エターナル・フォーミラーは不発だったが、今回は俺の勝ちだ!


今は懐かしき、わが故郷王立鍛冶屋ベルクートの門扉の前に俺は立っている。


作業場から聞こえてくる。


トントントン、カチカチチ、トンカチ、トンカチ・・・


金属と金属がぶつかり合う音が小気味よく、俺の気分を高揚させる。あの時、俺の発動させた究極のカウンター技、ロマンシングキャンセル!


気がトチ狂った振りをして、糾弾してくる相手の姿勢を崩し、その隙にその場をすばやく立ち去る。見事に成功した。


俺の居場所はここだ!ここしかない!


・・・・・・・・・・・・・・・・


「いやあ~ひっさしぶりだな~」


みんな明るい顔で出迎えてくれる


「なんで急にいなくなったんだよ」「お前がいない間大変だったぜ~」「また一緒にはたらくんだろ?」


帰るなりそうそう質問攻めだ。

ああ、親方!


むっつりと黙りこくったまま俺をまっすぐに見つめてくる。みんなも、しんとなる。


沈黙


やがて親方は顎でクイッと俺がいた持ち場のほうを指す。職場復帰が許されたということか。俺は足取り軽く、持ち場へ向かう。おかえりーと工具まで俺に呼びかけてくれるようだ。


・・・・・・・・・・


・・・・・


・・・


むふふふふっ!いい!すごくこれいい!!ようし、一旦深呼吸して・・・・よし!


「みなさ~ん!」


俺は扉のノブを回す。が、開かなあい。なんでかあかなあい。


なんだよ!今日は営業日だろうが!


ドアをドンドン叩くが返事もない。いつの間にか作業音もぴったり止んでいる。


俺はぐるりと窓から中の様子を覗おうとした。ところが、暗い。中が見えない。人の気配がない。真っ暗だ。


様子がおかしいなと感じた俺は、もう一度扉を叩く。


「すんませーん!俺だよ、俺!」


ちょっとふざけて詐欺師になってみるが、通行人にじろっと睨まれる。


うるせぇ、こっちは儲けさせてやってんだよ、と心の中で毒づく。


扉のほうはまったくびくともせずだ。埒が明かないので裏手に回ってみる。


裏口があるのだ。


裏口からなら剣が刺さっていた場所のすぐそばに入れるのである。


裏口に向かって進んでいると、話し声が聞こえてきた。


なんだ?誰かいるのか?


「くっそ、ここのドアも開かない、閉まってる」


ガチャリ、ガチャ、ガチャ


「この僕に開けられない扉があるとか、信じられんわ」


ガチャ、ガチャ、ガチャ


夢中で裏口の扉の鍵穴をいじくりまわしている。俺は確信した、この人は・・・・


鍵屋さんだ!どうして裏口にいるんだ、正面扉を開けてくれよ・・・


しかしそこは俺も職人、人の仕事にいちいち口出ししたりはしねえ。


「やあ、こんにちは」


俺は鍵屋さんと思わしき人物に声をかける。


鍵屋さんは一瞬ギョッとした表情で俺のほうを振り返った。


「おおぅ、こんにちわ」


なぜだか、少し困惑しているように見える。


「その鍵、開かないの」


「・・・・・ズリズリ」


「いやあ、なぜだか今日閉まってるんだ、普段営業しているはずなのに」


「・・・・・ズリズリ」


鍵屋は何故か俺のほうから少しずつ離れてゆく。無口なやつだ。


「なんだかねぇ、中も静かだし、まるで誰もいないみたいだわ」


俺は鍵屋に話しながら、何とはなしにドアノブを捻ってみる。


かちゃ


「あれ、扉あいてんじゃん」


「え、まさかそんなことありえるはずが」


鍵屋は驚く。何言ってんだこいつ、現にあいてるじゃん。キーッと扉が開かれる音がそれを証明する。


中は真っ暗だ。


「なんだ明かりがいるな・・・」


と思ったと同時になんか変な違和感がある。


外は昼間である。当たり前だが窓から光が射せば、普通は室内も見渡せるはずだ。


内側から黒いカーテンでもひいて、遮光しているのか?


いや違う、黒い霧のようなものが室内を満たしている。


なんだこれは?何が起こってるんだ、さっぱりわからん。


ひとりで訝っていると


「うぉわぁ!」と突然、正門のほうで声がした。


「てめぇ、こないだの食い逃げ野朗だな」


聞き覚えのある、女性の声だ。


「今度は盗みに入ろうとしたのか?」


これまた聞き覚えのある男性の声。


「うるせぇ!犬ども!」


これはさっきの鍵屋の声だ。


「おまえらみたいな、得体の知れない連中が、のそのそ這い回ってるから、世の中いつまでたっても住みよくならないんだぞ!よく考えろこのバカアホ!」


これに応えたのはあいつだ。


「えーえーよく考えてますよ。もちろん。あなたもこれからのことを考えたほうがよろしいのではないですか」


・・・サティアン・・・!

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