第11話 仕事もうやめたい。
俺と匿ちゃんは、ヒョロガリ勇者がぶっ壊したタルを、新しいのに交換したり、勝手にあけて回ったタンスを元どうりに戻すという労働を強いられていた。
この後も責任重大な仕事が待っている。
タンスの中にいれておいたセクシーランジェリーと、つぼの中に隠しておいたへそくりを持っていかれ、机の引き出しに入れておいた日記帳を勝手にみられた。以上の住人からの被害報告をうけ、賠償額を後に補償することを約束する手紙を作成し王様に報告するのだ。
「なんで俺らが後始末をしないといけないんですか!?」
俺は怒りで頭の血管が切れそうだ!
匿ちゃんは俺にこう説明してくれた。
「いざ、という時に法律や一般常識にとらわれていては身動きできなくなるかもしれんだろ。ある程度は自由に行動できるように勇者の身分は保障されているんだ。」
「じゃ人の家に無断で侵入して、金品を持っていいんですか?勇者だから?」
「経済的な理由で、目的が果たせない勇者なんて聞いたこと無いだろ。民家に眠っているものを活かすのも勇者の仕事だ」
「人の日記をみたりするのは?」
「情報収集して、なにが問題なのかを突き止めるのも勇者の仕事だ」
なんという特権!
「勇者のやつ、めちゃくちゃ高価な剣買っていきましたけど、あれ盗んだ金だったということですか?」
「いやあれはな・・・・」
匿ちゃんは王様と謁見中のヒョロガリの言動について教えてくれた。勇者はまず国の公営ギャンブルについて激しく言及しだしたそうだ。
宝くじの当選金が、毎年かなりの額が支払われない状態になっていること、これは当選者が受け取りに来ていないからだと説明されているが、それなら当選者の名前を公表すべきである、などいろいろな案を出してきたそうだ。
なぜそんなことを言い出したのか? 勇者は未払いの当選金を国がプールしているのだと勘ぐっていたらしく、ゴネ得を狙ったものだったらしい。
これがただの住民の訴えだったら、そんな馬鹿な話が通るわけもなく、つまみ出されるのがオチだったのだが。
王様と謁見だと思っていたが、実際に勇者と応対したのは大臣だったらしく、こいつが「ミニスター先送り」と陰口をたたかれるようなやつで、勇者の気迫に押されるのと同時に、今の地位からの転落を恐れたらしく、しぶしぶ承諾したのだ。
それって、プールしているのを認めてるのと同じじゃね?と思ったが大臣の決定を覆せるものでもなく、また反対意見を唱えるものもいない為、勇者はまんまと支度金という名目で、国庫から10000000Gを見事引き出したのである。
最近の勇者は恵まれていると匿ちゃんはぼやいた。
俺の子供の頃の勇者は、何があってもすべてを受け入れ、「はい」の一言だけを残し、後は寡黙に目的を達成していったものだったのにと。
そういや誰かから聞いたっけ、昔の勇者の人は、量産型の剣一本と着替えを2着、そんで何故か装備できないぼうっきれに50G硬貨を一枚っきり渡されてたって。
偉いさんと交渉するなんてありえないと。
匿ちゃんはその頃の時代からずっとモブマントをつけて仕事をしているのだ。
大ベテランである。
勇者が叩き割ったつぼを、アロンアルファーでせっせと直している匿ちゃんの背中を見ながら、俺はなぜか悲しくなった。
なんだろう、この気持ちは。
俺はモブマントの懐から、インキのビンと便箋を取り出し報告書を作成した。
日時 1800頃
場所 城下町 民家
行為 超法規的徴収
徴収物 下着 現金1000G 私的情報
外的景観 再現済み
このインキは書くと消えてしまい、王様にしか見えないようになっているらしい。内容はまあ、ようするに勇者が荒らした家を綺麗に元どうりにしましたよってこと。盗られたものは後で補償してくださいね、国が責任もってね。
うう、なんでこんなことになってるんだあ!
ふざけるな!絶対勇者○す!
けど犯罪者にはなりたくない!
だから、隙を見て逃げたろ!こんなことやってられるか!しれっと鍛冶場に戻るのだ!今ならまだ間にあうさ!
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