第5話 拾ったものを勝手に身に着けて外を出歩くのは非常識なので真似しないでね。
「お前は私に挑戦しないのかい?」
誰かに呼ばれる。そして目が覚める。薄暗い6畳間の一室。見慣れた天井。
自分の部屋だ。
「ああ、変な夢を見たな」とつぶやき体を起こす。
そして昨日あったことを思い出す。鎧泥棒、回し蹴り女鳶職、ノックアウト大柄な男、そして何者かに狙撃された男!
剣を地面に突き刺したとたん、まるで引き寄せられるかのように、人々が集まってきた。
親方はこれを機にどんどん商売を広げるだろう。眠い目をこすりながら、顔を洗い、ふと床をみた。
狙撃された男から受け取ったかばんが目に付いた。
「あ、そうだったな」
面倒なことになりそうだと思いつつ、持ってきてしまった。持ち上げてみると何か入っている。
中身をドサッと布団の上にぶちまける。
「なんだ、これ?」
便箋と白紙の手紙、インクのビンに羽ペン、双眼鏡、王国のマークが印された鉄砲と銃弾が6発、薬草が入った袋、聖水のビン、王国のマークが印された腕輪にフードつきのマント
どれも高級品っぽい代物だが、結構使い古されている。
「ふーん、地味なセンスだな、面白くもなんとも無いな」
マントを羽織り、腕輪をつけてみると職人っぽさが消え、ものすごっく普通っぽい、何の特徴も無い、いわば「モブキャラ」になってしまう。
なんだが自分ではないみたいだ。
かばんに荷物をしまって、さて、このままの格好でちょっとでかけてみよう。
モブマント(勝手にそう名づけた)を羽織り、町を闊歩する。今日は仕事が休みである。なんだか、すべてから開放された気分である。
公園のベンチに座り、ぐーっと両腕と背を伸ばす。そして、フードを被ってみる。
すると、なにやら話し声が聞こえてきた。
「おい、連絡が途絶えてるな」
「銃声がしたんだよ、もう死んだよ」
「確認とったのかよ」
「えーもういいじゃない。あいつ・・・」
うるさいな、誰だよ?
フードを外し、周りを見回すもそばには誰もいない。かなり離れたところに、年寄りと家族連れがいたが話し声の主とは違うだろう。ぼそぼそと話し声が聞こえる 一体どこから聞こえるんだ?
よくよく調べてみると、フードから声が聞こえてくる。いや、正確にはフードの内側に宝石がついている。ここからだ。これは通信機か?
「もしもし」
「だからさあ・・・えっ」
とたんに静まり返る会話。
「聞こえる?」
「・・・・ゴホン」
「おーい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まったく何も聞こえなくなった。なんだってんだ、つまらない。宝石に話しかけるのをやめた。
そして顔を上げると、先輩が歩いていくのが見えた。鎧泥棒を捕まえた、あの先輩だ。
モブマントを羽織、先輩の後をつけることにした。十メートル後ろからついて行く 先輩は気づかない。
角を曲がり、5メートルまで迫る。先輩は気づかない。
競馬場に入り、隣で馬券を買う。先輩は気づかない。
二人とも予想を外す。すぐ近くで「あー外した!」と叫ぶ。先輩は気づかない。
二人で一緒に横並びで、競馬場ゲートをくぐる。
まったく気づかれない・・・
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