第2話 思い出す、職人だったあの日のころ

鍛冶屋には町中から剣の噂を聞きつけた人がしょっちゅう訪ねてくる。応対するのはいつも俺。やれやれ、これでは仕事にならん。剣の周りにはいつも人だかりができてしまっている。

騒ぎに便乗して鎧を一つ持ち逃げしようとした盗賊を、先輩が捕まえて兵士に突き出しに行った。馬鹿なやつ。うちはみんな腕っぷしが強いんだよ。それにしてもこの騒ぎ、どうにかならんのだろうか。本当に作業能率が下がってしまっている。王国軍に納めるアーマーだってまだ仕上がっていないというのに。

そんなことを考えながら、俺は金槌と鋲でアーマーの金属と革の部分を繋ぎ合わせる作業をしていた。

と、そこへ大きな歓声。

誰かが剣を引き抜いたのか?

歓声のしたほうへ目をやると、大柄な男と鳶職人の格好をした人が言い争っている。

「お前のような小娘に、こんな剣が扱えるものか」

大柄な男は鳶職人に向かって嘲る。鳶職人のほうは、なんだ、よく見ると女の子ではないか。


何か大柄な男に向かって言い返しているようだ。


 赤いアイシャドウをした、少し無理をした感じのツッパリネーチャンが、ボンタンに作業着を身につけ、ヘルメットを小脇に抱えている。腰にはノミなどが入った工具袋を結んでぶら下げている。ものすごく澄んだ綺麗な茶色い瞳で、キッと大柄な男を睨みつける。ヘルメットを床に置くと、剣の前に立つ。そして、剣の柄の部分を、ぐっと掴むとスーっと深呼吸をした。周囲の人々も息を飲む、一瞬の静寂、ハーッと吐く。俺はその様子を見守る。あれ、なんか、剣がうれしそうな顔をしているような気がする。


そして、次の瞬間、俺は信じられない光景を目の当たりにする。


ぐるんと大柄の男のほうへ向き直る鳶、そして吹き飛ぶ大柄の男!あれは・・・上段後ろ回し蹴り!!!


大柄の男がどたーんと仰向けにひっくり返る。鍛冶屋の中は大騒ぎだ。俺もびっくりして、製作途中のアーマーを落としてしまった。鋲がはずれ、大きな傷がついてしまった。鳶は剣が自分には抜けそうに無いことがわかると、舌打ちして、ひょいと柱をつたい、騒ぎを尻目に、高いところにある換気用の小さい窓からさっさと出て行った。なんという身軽さだ。男は町の療養院に担ぎ込まれていった。


 今日は何て日だ。くそが、傷を修理するのに、材料を取り寄せて、打ち直して、よその工場に依頼をして・・・1週間はかかるぞ!


はあ・・・


まったく、あんな剣、直すんじゃなかったよ


仕切りなおしに、外に飯を食いに出よう


財布の中は20Gしかない


「机の引き出しに、500G金貨があるよ」


おお、そうだった、忘れてた・・・


あれ、誰だ今の声?


周りに人はいない


まあいいか、食事にしよう




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