勇者の行動を王様に報告する係員をやるハメになった。

おおやましのぶん。

第1話 職を失った、引っ越しの準備をしよう。

薄暗い六畳一間。俺はこの狭い部屋で一人、次の人生のステップを踏むべく、引っ越しの荷造りをしていた。しきりに涙がこみ上げてくる。俺は16歳の誕生日に慣れ親しんだこの鍛冶屋を出ていくことになった。この鍛冶屋、創業100年を超える歴史ありの王立学校の教科書にも出てくるほどの鍛冶屋で、かつて王立軍の将軍の剣を打ったこともあるという、まあ一言でいうと「めっちゃええ仕事をしている鍛冶屋」なのである。


俺は子どものころに、ここの親方に拾ってもらい、そして短期間のうちに親方の腕を超えた。この親方、弟子を100名以上抱えたすごい職人らしいのだが、正直俺にはちょっと頭の固い頑固おやじにしか見えなかった。この親父は俺が打つ王国軍アーマーの代金を4割もピンハネしていた。素直に俺の腕を認めて、独立させてくれればこんなことにならずに済んだのに。はぁと思わずため息をつく。ちょっと今までのいきさつを思い出してみよう。


かつてこの国を魔王軍の手から救ったアーサー王、とかいう人がいて、その人が使っていた剣をこの鍛冶屋の創業者が作ったんだって。剣は戦いのときに真っ二つに折れて、この鍛冶屋のシンボルとして作業場の壁に飾ってあったんだけど、眺めているうちになんとなくオリハルコンで打ち直せば治せるんじゃないかと、そう思ったんだ。


だけどなんとなく若手が古参を差し置いて意見を出すなんてできない空気が現場にはあったから、こっそり夜なべをして剣の再生に挑戦したんだ。まあ二時間弱で成功したんだけど、俺は本当に大したことはしていないし、誰がやっても成功していたと思う。きっと剣とオリハルコンの相性がよかったんだ。コロンブスの卵じゃないけど。


翌朝、直しておいた剣が垂直にぶっ刺さっているのを発見した先輩たちが騒いでいた。誰の仕業かと騒ぎながらチラチラと俺のほうを見ている。


あーそうですよ、俺の仕業ですw 切れ味はどの程度かと試しに地面に突きこんでやりましたww そして抜けなくなってしまいましたwww


俺はニヤニヤするだけでしれっと自分の持ち場にゆき、仕事の準備を整える。剣を抜こうとするものが何人かいたが誰も抜くことができなかった。結構力自慢の人が多いのにそんなに深く刺さっているのか?気のせいか剣が俺のほうを見て笑っているように見えた。

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