第25話 役目を担う者たち

 かつてのファーレンクーンツ王国銀竜騎士団長ダグラス・ルーンフォルト。

 かつてのラサ帝国最強の剣士ザイハルト・ウォーグラム。

 ウェンブロークの会戦の末期と帰路でそれぞれ命を落とした2人。

 勝者と敗者だったはずの2人。


 その両者が今、共に人を超えた存在魔人ヴァルオールとして蘇り二十数年の時を経て再び対峙する。


「お前がここにいるって事はオレの企みは漏れてたって事かよ……クソッ」

「そうだ。学校に今いるのは影武者だ。夕方に入れ替わって私はここに来た」


 吹き抜ける風が向かい合う2人の男の髪を揺らす。


 黒蛇会による同時多発テロの計画を暴いたのはクラウスの率いる特務部隊員たちと、そしてフガク・エンゴウ配下の諜報員たちの働きによるものだった。

 主人を亡くしたフガクの配下の者たち。

 彼らはそのまま主人を殺めた者たちの調査を続け黒蛇会のテロ計画を暴きだした。

 そしてその情報を王宮へ提供したのである。

 それは主人の仇討ちと自分たちの暮らす都で大惨事を引き起こそうとしていた黒蛇会への義憤からの行動だった。

 裏社会に生きる者たちであっても自分の故郷が破壊されるのは看過できるものではなかったのだ。


「フン、計画を押さえておきながらあえて市街は見捨てる事でオレをここへ誘い込んだか。意外とドライな判断をしやがるじゃねえかよ」

「何か勘違いしているようだが、我々は街の人を見捨てたりしていないぞ」


 ダグラスの言葉にザイハルトが兜の下で怪訝そうに眉を顰める。


「あぁ? あの程度の人数向かわせてオレの兵隊どもをどうにかできると思ってるのか?」


 嘲るザイハルトに答えたのはダグラスではなくバルコニー上の国王だ。


「送り出した者たちはあくまでも増援だ! お前たちを撃退する役目を担った者たちは初めから現地でお前たちを待ち構えている!」

「……ンだとぉ?」


 今度こそはっきりとその声に苛立ちと不快感を滲ませてザイハルトが唸った。


 ────────────────────


 イグハートン王立総合病院。


 ドガッッッッッ!!!!!!!


 激しい打撃音と共に暗殺者は吹き飛ばされ地面で数回バウンドして転がった。

 大地に転がる男の意識は完全に刈り取られピクリとも動かない。

 その一撃を放ったのはタンクトップにハーフパンツ姿の筋骨隆々な大男である。


「っしゃぁッッ!!」


 暗殺者を一撃でKOしたのは矢のようなドロップキックであった。

 そして周辺には同じようにのされた暗殺者たちが無数に転がっている。

 病院を守る筋肉質な巨漢たち……彼らは……。


 1人のスーツ姿の大男が巻き煙草を燻らせながらのしのしと現れる。


「よォしお前ら……王国プロレス魂見せる時だぞオラッ!! 気合入れろオラッ!!!」

「押ッ忍!! 社長!!!」


 社長と呼ばれた男の言葉に周囲のレスラーたちが思い思いのポージングをしながら雄叫びを上げた。


 ────────────────────


 王都美術館。


 打撃と組み技を高いレベルで操る黒装束のレスラーたちが暗殺者たちを次々に撃退していく。


「この場はリングの上のサムライ集団『MONONOFUモノノフ』が仕切らせてもらう。悪党どもに容赦無しッ!!」


 そう言った黒装束のレスラーはサムライと言いながらも何故か忍術を使う印を結ぶようなポーズをしていた。


 ────────────────────


 王立士官学校。


 暗殺者に襲撃を受けた士官学校に現れたのは余にも珍奇な集団だった。

 恐ろしいデザインのマスクを被る者、顔に奇抜なペイントを施している者など。

 そして大体の者が釘バットや鎖鎌などの凶器を手にしている。


「ギャハハハハッッ!!! 俺たち極悪ヒール集団『悪逆同盟』の今夜の獲物はどいつだぁぁぁぁッッ!!!」


 紫色の長い舌を出したペイント顔のレスラーが叫ぶ。


「いい子のボクちゃんたち、ちゃんとお勉強しねえと俺たちみてえになっちまうぜぇぇぇッッッ!!」


 物陰から様子を伺う士官候補生たちにそう声を掛け凶器を手にしたレスラー集団は暗殺者相手に暴れ回るのだった。


 ────────────────────


首領ボス!!! 大変です!!! ……街に出した連中が……」

「………………………」


 駆け寄ってきた部下の報告は市街に放った暗殺者たちが待ち構えていたレスラーたちによって次々と撃退されているという報告だった。


「どうしますか!? このままでは計画は失ぱ……がはッッ……!!」


 血を吐いた黒蛇会の刺客が愕然とする。

 自分の腹部に生えた刀身を見下ろして……。


「ボス……どう……し……て……」

「役立たずどもがよ」


 吐き捨てるように言うとザイハルトは部下に突き立てた剣を引き抜いた。

 糸が切れた操り人形のように目の前の部下がへたり込んで項垂れ動かなくなる。


「酷い事をする」

「……そうか?」


 眉を顰めて言うダグラスにザイハルトは血で濡れた長剣を肩に担ぐように持ち直した。


「こんなもんオレらからすりゃ何でもねえだろうが。お前だって使えると思って持ってた道具が全然役に立たねえガラクタだとわかれば処分するだろ?」


 ダグラスは言葉を返さなかった。

 その無意味さを悟ってしまった。

 この男の邪悪さと冷酷さは生来のものだったのだろうか、それとも自分が変えてしまったのだろうか。


「それにしても……してやられたぜ。まさかそんな伏兵を用意してたとはなァ」


 ザイハルトから青黒い炎のようなオーラが立ち上る。

 バルコニー上のフリードリヒ王が手すりに両手を置いて僅かに身を乗り出す。


「そうだ。これが英雄ダグラスとレスラーたちとの絆だ!! この熱き魂の繋がりがお前の邪悪な計画を打ち破ったのだ!!!!」


「……………………えっ?」


 ……名前を出された本人が一番驚いて呆気に取られていた。




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