第16話 国王は延髄切りと共に

 ファーレンクーンツ王立士官学校……我が母校だ。

 武官のエリート養成校であり学問と運動どちらも成績優秀でなければ入学は叶わない。


 自分はここに叔父夫婦が通わせてくれた。

 両親を物心つく前に両方亡くしていた自分は父の兄夫婦によって育てられた。

 子供のない2人は実の子として自分を可愛がってくれた。

 士官学校に合格した時も、騎士団入団の時も、団長就任の時も自分の事のように喜んでくれたものだ。

 ……叔父夫婦には感謝してもしきれない。

 自分の訃報が届いたときはどれほど悲しませた事だろう。

 実は生きていたことを知らせることが叶わなかったのはとても大きな心残りだ。

 自分は復讐者として国へ戻るつもりだったので知らせようがなかったのだが……。


 そんな事をぼんやり考えている内に馬車はその士官学校の正門前に到着した。


「到着いたしましたぞ。ささ、こちらへ」


 そう促して正門へ向かうクラウス。

 ええ、我々このまま付いて行っちゃっていいのか。


 門へ着くとすぐに屈強な警備兵が2人出てきた。

 クラウスとなにやら話をして……どうやら拗れているようだ。


「困りますなクラウス翁。いくら貴方のお連れ様とはいえ規則です。許可証のない者を今敷地内にお通しするわけには参りません」

「ワシの紹介でもダメか。困ったのう」


 やはり我々の入校の是非で揉めているらしい。

 無理もない警備を厳しくしている最中だろうしな……。

 我々は外から周囲を見て回ることにしようか。

 そう思った時、数名の足音が聞こえてきた。


「困りますなァ……クラウス様。いくらあなたとはいえアポ無しではねぇ。おまけにこんな時間から正門で」


 胸にいくつも勲章を下げた軍服の小男が周囲に数名の体格のいい教師たちを護衛のように従えて現れる。

 あの男は……。

 小柄で愛嬌があって、いつもおちゃらけていて場の盛り上げ役で……だが、度が過ぎてよくイーファンやシドに怒られていた……あの男。

 ばさばさだった髪は今は丁寧に撫でつけられており、ややツリ目気味だった目は当時は掛けていなかったメガネの向こう側に。そばかすや出っ歯は相変わらずだ。

 当時の愛嬌は今はなく、神経質そうな尖った雰囲気を纏っている。

 元第6部隊長シャハム・マウム……彼がそこにいた。


「おお、シャハム学長。ちょうどよかった」


 呑気にクラウスが手を振る。

 そして席へ客を案内するウェイターのような仕草で我々を指した。


「ダグ……コホン、こちらをお連れしたんじゃ。入れてくれんかね」


 えっ、そんな軽い感じで紹介しちゃっていいのか?

 等と内心で動揺していると……。


「ンン~~~~?」


 胡散臭げにこちらを見やり、眼鏡の位置を直すシャハム。

 やがて彼は何かに気付いたように硬直する。

 その顔色は一瞬で蝋人形のようになった。


「…………おボふ」


 そして妙な声を出して泡を吹くと小柄な学長は失神してその場に崩れ落ちたのだった。


 ────────────────

 ……目を覚ましてからのシャハム・マウムの醜態は凄まじいものだった。


「びゃああああああああああああああああああああ!!!! 殺さないでぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」


 泣き叫び、吐いて、漏らして、大暴れする。

 声も掛けられないから説得もできない。

 色々な物が飛んでくるので近付けもしない。

 そしてその状態でのスタミナが凄い。

 30分もその状態が続くとこちらもグッタリしてしまう。


「困ったのォ。こいつメンタルクソザコ過ぎじゃろ」


 ……酷い事言うとる。

 つかこの状況半分くらいお前のせいだろ。

 しかし困った。この惨状、どうしたものか……。


「何事だ!!! この有様は!!!!」


 朗々とした声が響き渡り学長室のドアが開け放たれた。

 そして入ってきた男は一目で高貴な人物とわかる体格の良いナイスミドルだ。


「……陛下!!」


 その場にいる者たちが直立不動の体勢となる。

 私とエトワールを除いてだが。

 シャハムもその人物を見てようやく動きを止めている。


「学長、これはどういうことだね」


 言いながら国王は学長室に入ってそのまま走り出した!!

 加速した王が一気にシャハムに迫り床を蹴る。


「答えたまええええええッッッッ!!!!!」


 ……ドゴォォォッッッッ!!!!!!!


 凄まじい勢いの延髄切りがシャハムに炸裂した。

 シャハムは完全に白目を剥いて吹き飛び大窓を突き破って破片と共に外に消えていった。


「答えたまえと言っている!!!!」


 無茶苦茶言いよる。

 今の国王は暴君なのだろうか。

 名君だって聞いてたんですけど。


「死んだんじゃないですかね」


 エトワールが小声で言った。

 ……私もそんな気がする。



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