第3話 商品
去年、レイはお金に困り、
会社の知り合いから勧められた「接客サービス」をやることに。
高額な報酬を怪しんだが、当時とても切羽詰まっており、
人と会話をするだけでお金が貰えるならと
やって来た場所は古くて薄暗い小さいビルの一室。
ひと気がなく、不気味な佇まいで人がいるかも怪しかったが
着くとそこにはオーナーを名乗る男がいた。
部屋には何十種類にも及ぶコスプレがあり、いくつかの衣装を渡され、着るように指示された。
嫌だったが断ることもできず、大人しく着ることに。
台本を渡され、カメラを設置しながらオーナーが言う。
「紹介してくれた人から一通り説明されてると思うけど
今から撮影に入るね。カメラが回ったら台本通り動いてね。」
状況が理解できず、慌てふためくも
オーナーが部屋を出た後、カメラの前で指示通りに動く。
なんとそこは法律的にグレーな
裏ビデオの販売とアダルト配信を行う会社だった。
際どいポーズ、性を想起させる際どいセリフ。
本当はとても嫌だった。
でも、男性と密室で二人きり。
この状況で断って、何か遭ったら
〝力では絶対に勝てない〟
なので、渋々従うことにした。
レイは店に所属する契約が進められ、
終わった後はホームページに載せる写真撮影。
ぎこちない表情で写真を撮られる。
後日レイが自分でアップロードし、
ブログを更新する用に保存させられたと言う。
「○○さん、凄いですね!」
「へ〜知らなかったです!」
「レイ、分かんなぁい♡」
「あはは、レイちゃんは俺がいないと何も出来ないんだなぁ♡
愛してる♡俺が幸せにしてあげるね♡」
画面越しに客が言う。
「従順で無知で愚鈍。反論などしない。
まるで自分の意思などない人形…?
いや、はたまた人の形をした何か…。
それを『アイシテル』と言うのは毒親と同じだ。
アタシ、本当は思い通りになんてなりたくない…。
『可哀想な相手を守ってあげる自分が好き』は自己愛であり、愛ではないと思うんだ…。
『可哀想な相手を心から愛おしく感じる』
それこそ愛だと言える…と…思う。」
「…アタシは昔から絵を描くのが好きだった。
ネット上に上げると賞賛のコメントもつくけど、時に批判が届くこともある。
その度に猛練習し、上手くなる…。
絵は…練習すればする程上手くなる…。
顔も声も見せないインターネットは
いくら批判されても居心地がよかった…。
性を仕事にすることは…自分の性別を商品にするということ。
なんだろう…な…自分で選んできたわけじゃない女性という性別を
品定めされ…値段を決められ…消費される度…
何かが…うーん…なんていうのかな…
心の中で擦り減っていくような…そんな気がしたんだ。」
確かに、レイは職場の田口さんのような、
いわゆる「女っぽい女性」ではない。
化粧っ気もなく、おしゃれもせず、
でもかと言って男勝りで粗暴な女性というわけでもない。
自分の感情を「女の子は〜」という主語ではなく
「自分はどう思うか」で語る人だ。
そんなレイだからこそ仲良くなれたのかもしれない。
____「…ってこと。ま、まぁムカつく奴にはアタシは全然言い返したけどね(笑)
そしたらビビって誰も言い返して来なくなった!(笑)
アタシ自覚はないんだけど、キレたら怖いらしい(笑)
金の為に仕方なく頑張った〜って感じ。
…まぁ今はサトに出逢ってのんびり過ごしてる時間が
楽しいからいいんだけどね!全然平気だよ今は!」
にっこりと笑うレイ。そんなことがあっても
笑っていられるなんてレイは強いなぁ。
「…そっか…色々大変だったんだね。まぁ、大丈夫ならいっか!」
色々大変だったんだなぁ。
でも、いつものレイらしい笑顔を見せてくれてよかった!
「今日はもう寝ようか。」「そうだね…!」
その日はもう遅いので寝ることにした。
私が少しでもレイの支えになれてたらいいな…。
朝5時。変な時間に目覚めた。
隣にいるはずのレイの姿がないことに気づく。
どこを探しても、いない。いない。
キッチンにもいない、お風呂にもトイレにもいない。
買い物にでも行ったのだろうか。
寝室に戻ると、開きっぱなしの窓でカーテンがひらりと揺れていた。
からっとした秋の風。静かに差し込む光に
なぜか心臓がバクバク高鳴り始め、恐る恐る下を見下ろす。
「きゃーーーーー!!」
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