第2話 レイ

「は、はじめまして…」うーん…違うな。

「フォローありがとうございます!」い、今更…?

唯一の友人…になれるかもしれない存在に

嫌われないようあれこれ悩んだ結果

「写真いいですね!」と送ることに。

すると思ったよりすぐに返信が来た。

「ありがとうございます!倉井山の近くで撮ったんです〜」

倉井山!?私が死のうと…行こうとしていた近所の山ではないか!

ご近所さん同士ということで、打ち解けるのに時間はかからなかった。

 彼女の名は芳野レイ。隣のビルで働くOLで、

私の家からそう遠くないマンションで一人暮らしをしていた。

引っ越してきたばかりで友達がいないらしく、

私達は毎日話すようになった。

レイは周囲から舐められやすく、

主に上司から理不尽な要求をされがちらしい。

そんな上司のことをレイ自身は

「心底見下しているw

だって間違ってんの向こうじゃね?」と笑っていた。

レイが時折SNSで垣間見せる「虚無主義」は

自分と一致する部分もあり、

現世の虚無を共有し合える仲間が私の心を満たした。

お互いについて色んなことを話し合い、

自○について考えることはすっかりなくなっていったが、

未遂に終わったあの日のことを打ち明けることはまだできなかった。

 ____程なくして私達は会うことに。


駅に着くと周囲を気にした様子で立ち尽くす

細身で小柄な女性がいた。

レイだ。癖っ毛と言っていた外ハネの長い黒髪。

すっぴんに全くお洒落ではない男オタクが着ていそうな地味な服装。

「やっと会えたね…」レイが目線を逸らしながら恥ずかしそうに言った。

笑顔がぎこちなく、人と話すことに慣れていない感じが伝わった。

 駅構内の喫茶店に入った。

上司から虐められているらしいが、

冷静に素早く二人分のコーヒーをオーダーするレイは

私から見て、どこか問題があるようには見えなかった。

そしてお互いに仕事の話をした。

レイは上司以外の周りからも思っていた以上に酷い仕打ちを受けていた。

しかしそれで「私が間違っているんだ…」と思うわけでもなく

物事を俯瞰で見て、「おかしいことはおかしい」と頭で理解ができるレイが、

どうして言い返さず黙り込むだけなのか疑問だった。

 「レイなら冷静にズバズバ言い返せる能力があるのに。」

「いや…無理だよ。だって傷つきたくないもん。」

「どうして傷つくの?レイは100%間違ってないじゃん」

「…間違ってなくても、100%相手が間違っていたとしても、

自己を否定されるのが、怖い。」

そうか…

「理屈」と「感情」は別物なんだな。

きっと理屈では「上司が間違っている」と分かっていながらも

「感情」の部分がズキズキ痛むのだろう。

 「痛み」を感じるのは、生き物が死なないように設計された

「異常を知らせる為の機能」で、

どんな死に方をしようとも必ず苦しみがそれを邪魔する。

だから、腕を切れば痛いし、溺れたら、苦しい。

「痛み」を感じる心は美しい。

自分を守ろうとしてくれる大切なものだから。

 レイはぱっと見「か弱く従順」に見えられがちだが

実際に話してみると結構反抗的だ。

周囲を見下すようなニヤついた目つき、

それに相反して本当は傷つくのが怖い二面性を持っている。

まるで必死に自分を守っているようだった。

もしプライドが存在しなければ否定されて「傷つく」という感覚もない。

傷つきもしない人は輝きもしない。

レイのプライド、苦しいことを苦しいと感じる正常性は

正に「生きている」という言葉が似合っている。


 ____あれから数日後、レイがうちに泊まりに来た。

「社会人になってから誰かの家に泊まりに来ることって初めてかもなあ」

「だよね!私も誰かを泊めたことない(笑)

くつろいでいいよん。自分の家だと思って(笑)」

「ふふ。じゃあそうするわ(笑)」

「てか干し柿あるじゃんなんで(笑)」

「え、いる?(笑)食べていいよ(笑)」

「待ってなんで家に干し柿あんの(笑)

おばあちゃんち?(笑)」

「うちレイのおばあちゃんだから!(笑)」

「いや草」

笑いながら干し柿を食べるレイ。レイは大人しそうに見えて実はよくふざける。

他愛ない話をしながら穏やかに時間が過ぎていった。

 すっかり暗くなった夕方。

ソファで寝転がりながらスマホを触るレイ。

ふと彼女のスマホを覗き込むと、

そこには猫耳メイド服姿のレイが!!

「え〜かわいい!」とスマホを勝手に触り

カメラロールをスクロールすると

セーラー服に、スク水姿の際どいコスプレをするレイ。

「この写真何!?どこで撮ったの?」と聞くと

レイは困惑した表情を見せ、しばらく黙り込んだ。

「何?どうしたの?」と聞くと、

言葉に詰まりながら経緯を説明してくれた。

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