北へ

 金田城跡の入り口を過ぎて、ようやく国道三六二号に戻ってきた。別に三六二号って付けなくても対馬で唯一の国道なんだけどね。ところで対馬って一つの島よね。


「付属の小島を除くとそうやった。そやけど対馬って真ん中にくびれみたいなところがあるやんか。浅茅湾やねんけど、この辺は地峡みたいになってるねん」


 対馬の交通を考えると島の真ん中あたりで船が通れた方が便利だから運河が切り開かれたのか。そのために今では一つの島じゃなくなってるらしい。


「北側を上島、南側を下島っていうらしいで」


 ツーリング自体は快適だ。道は狭いところもあったけど、とにかくクルマが少ないのよね。クルマが少ないから信号も少ないから、これぞツーリングって走りになってると思う。もっともユッキーさんん言わせると、


「道は楽しいけど景色がイマイチ。どこにでもある田舎道に見えちゃう」


 まあ、あの二人は全国でも屈指とされる絶景ロードを走りまくってるから、そうなるのかもね。いくら空いてるとは言え国道になるとさすがにクルマはいる。当たり前か。へぇ、こんなところに対馬空港があるのか。


「とにかく平地が少ないとこやからやろな」


 やがて見えてきたのが赤く塗ったトラス橋。


「ホンマになんも書いてあらへんな。これが大船越瀬戸を渡る橋やのに」


 へぇ、下は運河なのか。この運河は江戸時代に掘削されたって言うから驚くよ。さらに走って行くと、今度は赤いアーチ橋があるけど、


「あれは万関橋で、下を流れるのは万関瀬戸や」


 これは明治時代に掘削されたそうだけど、なんと日露戦争のために作られたとか。なんでも浅茅湾に水雷戦隊が置かれたそうで、佐世保鎮守府との交通の便を良くするために作られたそう。でもさぁ、別に新たに作らなくても大船越瀬戸があるじゃない。


「大船越瀬戸は浅いんよ。そやから水雷艇でも通りにくかったらしい」


 万関橋を渡って対馬の上島だ。そしたら、


「ちょっとストップ。行き過ぎた」


 少し引き返して、


「上品すぎる看板やで」


 万関園地って書いてあるけど狭いと言うより怪しい道じゃない。怪しさの塊みたいな道を登って行くと。へぇ、公園になっていて二階建ての展望台もあるじゃない。展望台に上がってみると、


「これは絶景スポットね」


 浅茅湾が見下ろせるのか。複雑な海岸線と点在する島が素晴らしい。


「南国のリアス式かな」

「ああ、北の海のリアス式とは違うな」


 そっかリアス式海岸になってるのか。アリスもリアス式海岸って言えば荒々しいイメージがあったけど、ここから眺める浅茅湾は箱庭みたいにも見えるよ。そこからさらに走って行くのだけど、


「山の中ばっかりだねぇ」

「海岸線に道なんか付けられへんやろ」


 なるほど。対馬って島ツーリングだけど、ほとんどは山の中に道があるのはそのせいか。


「そうよ。淡路とは大違い。そのうち行ってごらん」


 淡路はひたすらぐらいにシーサイドコースだそう。三十分ぐらいしたら、


「対馬でここに來んとモグリやろ」


 なんだ、なんだ、あの鳥居は、海の中に立ってるじゃない、


「一番向こうのが一の鳥居、次が二の鳥居、陸地に立っとるのが三の鳥居や」


 ここは竜宮伝説もあるみたいで、


「海幸彦、山幸彦の世界やな」


 山幸彦は海幸彦から針を借りて漁に出たのだけど針をなくしちゃうのよね。これを海幸彦に猛烈に怒られ、なくした針を探す旅に出るんだっけ。そこでワダツミの神に助けられてその娘の豊玉姫命と結婚するって話よね。


「だいたいそんな感じや。ちなみにやが、山幸彦の孫が神武天皇になるのが神話や」


 えっと、それって日向の話じゃ、


「細かいことは気にせんこっちゃ」


 対馬のは和多都美神社ってなってるけど、海に向かって鳥居が並んでいるのは素直に海洋信仰だろうって。海から上がって来る神様を迎え入れるって感じかな。それと満潮の時には三の鳥居付近だけじゃなく、社殿まで潮が押し寄せる事もあるそうだ。


「山幸彦の話はコジツケやと思うけど、ここが聖地とされて崇められたんは間違いあらへんと思う」


 和多都美神社からさらに奥に進んだのだけど、また道が怪しいぞ。


「珍しく案内看板があるやんか。左の道に入るで」


 うぅぅ、怪しさ満載の道じゃない。これって舗装こそしてあるけど登山道じゃないの。


「ダックスなら登れるよ」

「こういう道こそ小型バイクの本領が発揮できるじゃない」


 そんなこと言うけど、道はクネクネ曲がるし、見通しは悪いし、ガードレールどころかガードケーブルがないところもあるじゃない。それに結構な登りだ、


「もうすぐや」


 なんか視界が開けてきたけど、うわぁ、左側に見えるのは浅茅湾だよね。


「この駐車場に停めるで」


 まだ道は続いてるけど、


「ちょっと歩きや」


 駐車場の近くに烏帽子岳頂上って書いてある階段があるけど、これを登るとか。


「すぐや」

「百四十五段ってなってたっけ」


 殺す気か。文句を言っても始まらないからえっちら、えっちら階段と格闘。登り詰めると、あそこに展望台が見える。上がってみると、


「ここはパノラマだね」

「浅茅湾から対馬海峡まで一望や」


 ぜ、絶景だ。これが見れるならあんな階段なんか、


「文句タラタラやったけどな」


 ギャフン。絶景を堪能したら烏帽子岳を下って、次はどこに、


「対馬と言えばネコ見んとあかんやろ」


 対馬ってネコが名物だったっけ?


「ツシマヤマネコや」


 対馬野生生物保護センターがあるそうだけど、これがなんと島の北の端っこの方みたい。


「保護センターだからはわかるけど」

「観光用とは思えんとこにあるな」


 島だから遠いって言ってもそれほど距離はないだろうけど、観光のためだったら厳原の近くに作るはずだものね。

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