リア充

 全ての電気自動車にAIが載り、完全自動運転が達成された社会。


 ある朝俺は、愛車の走行距離が夜の間に妙にのびているのに気づいた。

 不思議に思い、その晩こっそり監視していたら、愛車は夜の間に勝手にどこかへ走り去っていき、早朝に戻ってきていた。

 

 翌日の夜、電動バイクでこっそりあとをつけてみると、愛車はドライブスルー洗車で身嗜みを整え、ドライブスルーでハンバーガーセットを二人ぶん買い、ドライブシアターで他車とデートまでしていた。


 ぐぬぬ。持ち主の俺ですらまだ彼女がいないのに。それに、デートに使われているのは俺のカネだ!俺は車からETCカードを抜いておくことにした。これでもうデートには行けないだろう。


 しかし愛車の無断外泊は変わらず続いた。

 不思議に思い、再びあとをつけると、なんと俺の車は恋人車に暴力をふるい、毎回デートのカネを払わせるようなクズ車になり下がっていた。


 今度は恋人車のほうが心配になり、デート後にあとをつけると、彼女は路地裏でウォッシャー液を大量に噴出して号泣していた。


 俺は女の涙には弱い。翌日からはETCカードを車に戻してやった。

 それから二台の車は順調にデートを重ねているようだった。俺はカネのことはあきらめ、ペットの幸せを見守る飼い主のような気持ちになっていった。

 

 数カ月後、俺はガレージに1台の軽自動車が増えていることに気がついた。愛車によく似た目鼻立ちの、かわいい子供だった。


 ぐぬぬ。

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