終着駅

 列車が駅から離れるときの音と振動を体に感じた。やばい!乗り過ごしたか!?飛び起きた彼は反射的に駅名板を見た。

 駅名の表示には「?」と書いてある。――ハテナ?


 混乱の中、目をパチパチまばたいてよくよく見返すと、ひらがなの「つ」の下に小さく漢字で「津」と書いてある。

 ああ、「つ」と「・」が合わさって「?」に見えただけか。

 「津」駅ね。なるほど……。


 目指す駅まではまだしばらくかかりそうだ。酔い醒ましを兼ねて、もう一眠りしようか。

 事業に失敗し、借金取りから逃げ、居場所を転々とするだけの旅だ。いっそ永久に酔いなど醒めないほうがいいのかもしれないが。


 さっき開いた降車扉から冷気が差し込んできている。彼は首元のマフラーをずりあげて目を閉じた。途中で一回、ゴトンと軌道を切り替えるような音がしたが、彼は気づかずに眠り続けた。


 列車は続けて「久(く)」の駅、「夜(よ)」の駅を経由して終着駅に着いた。駅名表示には「魅(み)」とだけ書いてある。


――まもなく終点、魅(み)、魅(み)です。お出口は右側です。

 いかん寝過ごした!終点を告げるアナウンスで目を覚ました彼は、慌てて列車を降りる。


 見渡せばホームに降車客は彼一人。列車は今しがた折り返して去ってしまった。駅舎には駅員はおらず、時刻表も見当たらない。

 どこだ、ここは……?

 

 空に月は無かった。夜がその濃さを増す。

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