隠し事

「今ニュースで『筑波大学で研究中の人工妖怪が逃げ出した』ってやってたよ。人間そっくりに擬態するそうで、見た目には全く区別がつかないらしいね」

 俺がそう言うと、アヤは目をそらし悲しそうにうつむいた。


 アヤとは数日前に知り合って、それから一緒に住むようになった。

 抜けるような白い肌の女で、ほっそりを通り越してちゃんと食べているのかが心配になるような体つきだが、一通りの家事をてきぱきこなし、俺の身の回りの世話を何くれと無く焼いてくれていた。


 仕事も何をしているのかわからず、いつも何かを隠している様子だったが、まさか彼女が……と考えていると、黒服の男たちがドアを強引にこじ開けてドヤドヤと部屋に押し入ってきた。


「あなただけでも逃げて!」

 抵抗したアヤが、彼らともみ合いになり倒れた。家具に頭をぶつけたのか、額から一筋の血が流れる。


 体中の血がカッと沸き立つのを感じた。自分の骨格がめりめりと音を立て、体が一気に膨れ上がったのがわかる。


 ああ、そうか、俺か。俺であったか……


 黒服たちは、俺が軽く腕を一振りしただけで全員が弾け飛んだ。


 アヤは気を失ったままで倒れている。

 もう俺のような存在が手を触れてはいけないのではないか……

 そう訝りながら、節くれ立ってしまった黒い指で、アヤの白い頬をそっとなでてみる。呼吸は安定しているようだ。

 壊さないように抱きかかえ、ソファに寝かせ、毛布をかけた。

――さよならだ、ありがとな。

 迷いを断ち切るように勢いをつけ、俺は夜の帳の中へひとり飛び出す。

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