トラックの想い出
子供の頃、近所の空き地にあった廃車のトラックの荷台に乗って、一人で遊ぶのが好きだった。
そのトラックの荷台の側板は高く、子供が隠れると外からは見えなくなった。僕はそこに漫画やスポーツカー消しゴム、ビー玉などの宝物を持ち込んで、暗くなるまでひとりで遊んだ。
そんなある日、僕はそのトラックの運転席の鍵が開いていることに気がついた。
いけないことと知りつつも、好奇心を抑えられず、僕はドアを開け運転席に滑り込んだ。
これがハンドルで、これがアクセルかあ。僕は初めて座る運転席に夢中になり、サイドブレーキを緩めてしまったことに気が付かなかった。
空き地はゆるやかな斜面になっていたため、トラックはゆっくりと動き出し、徐々に速度を上げ、ついには車道に出た。
僕はパニックになった。どうすれば停まるのか……わからない!
折悪しく目の前には会社員風の若い男性が歩いてくるのが見えた。もうだめだ!僕は目をつぶった。
――ドグワシャ!
トラックは向かいの家のブロック塀にぶつかって停まった。僕はしばらくダッシュボードに突っ伏して震えていた。
どのくらいの時間が経っただろう。僕は観念して車外に出た。車と塀の間を確認する。挟まってグチャグチャになっているはずの若い男の死体は……そこには無かった。
放心していた僕は近所の人に見つかり、呼び出された親にこっぴどく叱られた。事故で壊れたトラックと塀の弁償は親がしてくれた。代わりに、その後何年もの間、僕のお年玉は僕の手元には入ってこなかった。
*****
あれから二十年。今も時々あの時のことを思い出す。彼は何処へ行ったのだろう。異世界だろうか?願わくば、暮らしやすい所であれば良いが。
そんなことを考えながら歩いていたら、知らず識らずのうちに、昔住んでいた場所に足が向いていた。
この角を曲がると、あの空き地がある。
少しドキドキしながら歩を進めると、ふいにトラックが飛び出して来た。最後に目に入ったのは、運転席に座る、怯えた、よく見識った少年の顔だった。
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