ショート・ショート・ダンス
五十嵐有琉
ブラック企業
恥を忍んで言うがウチの会社はブラック企業だ。
営業部が短すぎる納期や安すぎる単価で仕事を取ってくるため、開発部は多忙を極めている。1ヶ月の残業が100時間を超えている者も多いが、そのほとんどがサービス残業だ。
こんな状態なので、毎月一人以上は倒れたり辞めたりする社員が出ている。先日も後輩の後藤が失踪した。
彼は先日大きなミスをして、客先からかなり手酷い詰められ方をしていたのだった。
徹夜明けの朝、彼は客先にその件についての謝罪メールを書いたが、連日の徹夜でヘロヘロになっていたのだろう。書き出しを「いつもお世話になっております。アレクシステムの後藤ではございません」と誤って書いてしまった。
その途端、彼の姿は床に吸い込まれるようにかき消えた。
その後、心を病んだ二人ほどが、後藤のPCを使って同じ方法で続けざまに失踪した。
会社は一時騒然としたが、二週間ほどで誰もこの話題に触れなくなった。誰もが自分のことで手一杯だった。
かく言う俺も、連続出勤が50日を超えており、もう限界だ。俺も今日失踪を決行する。
後藤のPCを開き「いつもお世話になっております。山田@アレクシステムではございません」と……
その瞬間、俺を含むアレクシステム社員全員の姿が同時にかき消えた。
*****
1つの企業の社員全員が一斉に消失した事件。机の上に暖かいコーヒーが残ったままだったということもあり、各メディアはこの事件を「現代のマリー・セレスト号」として大きく取り扱った。
世間は一時騒然としたが、二週間ほどで誰もこの話題に触れなくなった。
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